「リンはいくらでもある、しかし循環しなければならない」その4

リン鉱石は遠からず枯渇するといわれており、しかもリン鉱山がある国は限られている。リン鉱石の経済埋蔵量は300年なのか、あるいは100年くらいないのか、はっきりしない。これは石油と同じ状況であり、「無くなる」と大騒ぎすると石油価格が高騰して一般の人々は収奪されて、アラブの王族が大金を手にする。「たっぷりにある」と安心すると、価格は下がるがじゃぶじゃぶ使って環境負荷が高まるし資源枯渇が近づく。石油の場合は原子力とか太陽エネルギーとか代替手段があるが、リンは他の元素に代替することができないので、生産コストや投機(買占め)がそのまま価格に反映して暴騰する。そこで、「リンはいくらでもある」(土1トンに1.2kgもある!)と涼しい顔をしておいて、水面下では必死にリンの循環・利用システムをつくりあげるのが賢明だ。

現在、国、研究者、産業界が、リン資源の循環技術の開発に取り組んでいるが、リンの流通はきわめて複雑なため、公表されている資料を見る限り、国内のリンの需給についてはっきりしない(私が無知なだけかもしれないが)。かなり新しいと思われるデータは、下の図だが、日本の年間のリン鉱石需要量は616万トン!にも及び、半分以上の366万トンのリン鉱石が食料、飼料、肉として輸入されているという!?(引用文献参照)

リン表

リンフロー

最初にこれを見たときはギョッとしたが、どうやらこの図は「バーチャルリン鉱石需要量」といって、リン鉱石の需要を最大に見積もった仮定の計算らしい。論文には「肥料投入原単位は国により異なるが,計算を容易にするため,日本と海外における肥料投入原単位に差はないものと仮定する」と書いてある。上の表の右列を合計すると48万トンにしかならないので、リンの施用量の13%くらいが作物に利用されるとして計算しているようだ。

確かに、農業の業界では施用されたリンの利用率は10%未満とされているが、これはポットでの栽培試験であり、しかも1作のリンの利用率である(奥田・川崎、1957)。2016.8.7ブログの図にあるように、リンの固定化が完全にすすむのは、酸性の火山性土壌であって、中性付近では少しずつ溶出する。また水田の還元土壌でも溶出する。日本の畑地や草地で、強い酸性の火山性土壌というのは、北海道の一部の農地とされている。全国の農業試験場が定めている一般の作物のリンの基準施肥量は、吸収量の3~4倍くらいだろう。生産者は多収をねらって、多めに肥料を施用する傾向があるが、近年は土壌診断する農家も多いので、可給態リン酸の値が大きい圃場ではリン酸施用を控えていると思われる。リン酸肥料は高価なので、多く施用すればそれだけコスト増になる。

私がアメリカやカナダの中央部の畑作農家に聞き取りした限りでは、プレーリーのムギやダイズ栽培ではリン酸肥料を施用していない(2016.4.16ブログ、ただし聞き取り数が少ないし、トウモロコシ農家などには確認していない。より広範に調べる必要がある)。もともと、黒ボク土(火山性土壌)や赤黄土が多い日本では、リンの施用量が多いので、日本を基準にすると膨大な量になる。インドネシアの1人当たりリン消費量がかなり多いのは、インドネシアの農地の多くが酸性の火山性土壌で覆われているからであろう。

中国についても書くと、リン鉱山があるのは長江上流域の貴州省である。長江の支流の烏江はリンの含有量が高い地方を流れるため、長江の河川水には多くのリンが含まれている(文献参照)。さらに、長江流域は水田地帯なので、リンは土壌に固定されにくい。世界の古代農耕文明の中で、中国文明だけが現在でも高い人口扶養力を有しているのは、長江に多くのリンがあり、さらに水稲が栽培されてきたからだ。そして、長江から流れ出たリンは、黒潮にのって日本近海に流れてくる。このため日本列島の周囲は、世界でももっとも生産力の高い海のひとつであり、平野が少ない島国にもかかわらず1億人もの人々が暮らしている。さらにインドのデカン高原では‥‥長くなるのでやめておく。

その1(2016.5.29)で書いたように、リンのフローについては、リン鉱石だけでなく、①土に存在するリン、②リン鉱山のリン、③海水中のリンを、総合的に分析する必要がある。食料輸入国である日本は、他国の土の中のリンを大量に摂取しており、以前のブログで、われわれの身体の一部は、北米の土からできていると書いたのはそういう意味である。リンの資源問題は、日本の農業や産業の問題だけでなく、北米や中国の農業問題でもあり、世界の未来の人類の外交や貿易を含む生存の問題である。(つづく)

※一部訂正
→ただし聞き取り数が少ないし、トウモロコシ農家などには確認していない。より広範に調べる必要がある
→基準施肥量は、吸収量の3~4倍
→インドネシアの1人当たりリン消費量がかなり多いのは、

引用文献・参考文献
国際貿易に伴う世界および日本のリンフロー、2012
http://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9008/9008_tokushu_2.pdf
未利用リン資源の有効活用に向けたリン資源循環モデル開発、2013
リン資源リサイクル推進協議会
http://www.jora.jp/rinji/rinsigen/
宮本一夫、中国の歴史 神話から歴史へ、講談社、2005
東シナ海における長江経由の汚染・汚濁物質の動態と生態系影響に関する研究
https://www.env.go.jp/earth/suishinhi/wise/j/pdf/J01D0122.pdf

 

あらゆる有機物から肥料を作る方法
電子園芸BOOK社 (2016-07-29)
売り上げランキング: 6,406

 

有機農業と未来: アメリカの有機農業から何が見えるか
本田進一郎 (2016-02-13)
売り上げランキング: 23,170

 

広告

投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズ(農文協)など

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中