電子の本を作る理由「あらゆる有機物から肥料を作る方法」

長い間、本の仕事に携わってきた。若いころから本が好きで、哲学、経済学、政治、思想、自然科学、生化学、分子生物学、進化論、生態学、植物学、農学、微生物学、歴史、神話、考古学など、さまざまな本を読み漁ってきた。1万円を超えるような専門書は、図書館を利用していたが、ほとんどは自分で本を購入してきた。これまでに買った大量の本が、自分の部屋に入りきらないので、廊下、物置、押入れなどあちこちに積んである。

本をたくさん読む人は、本を集めたり、本を読むこと自体を目的化する場合が多いので、本のことが好きな人だ。そういう人にとって、本というのは「紙の本」のことであり、私も電子出版にはまったく関心がなかった。じっさいに、出版社からの依頼で栽培や食べ物の本を企画・編集・執筆して、多くの紙の本を作ってきたが、ここにきて、紙の本を作るのが難しくなってきた。もちろん、製作コストに見合った売上が見込めないからだ。

市販される本というのは、読者の対象によって内容や価格が決まる。詳細な専門書は内容が難しいので、これを読解できる人は限られている。すなわち、発行部数は少なく、価格が高くなる。逆に、コミックのように、子供から大人まで対象にできるものは、どんなにページ数が多くても、内容は簡単だ。発行部数が多いので、価格は安くなる。近年は、昔ほど専門書が売れないので、専門書の出版社はどこも青息吐息だ。仕方がないので、他の企画をまねた本を大量に発行する。そのため、どんどん本の質が下がる。新しい本を買っても、すでに知っている内容ばかりだ。

このような紙の本の限界を痛感したのは、腐植についての文献を調べていたときのことだ。以前にも触れたことがあるが、腐植について書かれた本は、ほとんど出版されていない。

M.M.コノノワ、1964、土壌有機物、農山漁村文化協会
熊田恭一、1981、土壌有機物の化学、学会出版センター
筒木潔ほか、1994、土壌生化学、朝倉書店
青山正和、2010、土壌団粒、農山漁村文化協会

最後の本は土壌団粒についての本なので、腐植そのものについては、1994年の筒木先生の本で、22年前である。22年間の間に、新しい研究が行われているはずであるが、それらは研究論文として書かれているだけで、学会に所属している人しか読むことができない。たとえ入手できたとしても、研究者向けなので、最新の分子生物学などの知見や用語で書かれており、引用されている研究論文(ほとんどが英文論文)や分子生物学の素養がないとまったく読むことができない。こうして、マイナーな研究論文は、どんなに有用なことが書かれていても、誰からも注目されず、そのまま埋もれていく。

九州大学の和田信一郎先生が、そのことを端的に書いておられるので、やや長いが引用する。
「土壌学というのは農学部においてもマイナーな分野であり,私が勤める大学では,年間の受講生はたかだか40名位です.このようなマイナーな分野の(日本語の)教科書の提供にはいろいろ難しい面があります.まず,土壌学は無機地球科学,物理化学,植物学,微生物学などに結構深くかかわる分野ですので,著者にとっては,関連の内容を一人でカバーするのはなかなか難しいです.一方,出版社にとっては,発行部数が限られますので,収益があまり期待できない分野です.このような理由で,日本における土壌学の教科書は,多くの執筆者がそれぞれの専門分野を執筆したもので,ページ数の割には価格が高く,改訂は数年ないし10年に一度,というようなものでした」

「土壌汚染などの,土壌が係る環境問題が大きな社会問題となるにつれて,土壌そのものはマイナーな存在ではなくなり,土木・建設業,製造業,コンサルタント業などに携わる多くの研究者,技術者が(必要に迫られて)土壌学の勉強を始めるようになった.手っ取り早い方法は,誰かに尋ねることである.ということで,私のところにも結構たくさんの方が土壌構成物質や土壌中で進行する化学的,生物学的プロセスなどについて尋ねに来られた.また,そのようなトピックでの講演を依頼されたこともあった.その中で多くの方々から,既存の土壌学の本のなかには知りたいことが十分かかれていない,という感想をお聞きした」(引用:和田信一郎の土の科学情報http://sky.geocities.jp/alloimo/

これを読んだとき、それまで、紙の本にしか興味がなかった私は、「これからは、まともなことが書かれている専門書は、電子ブックで作るしかないな」と思った。もはや出版社には、「まともな専門書」を作る余裕がない。

というわけで、これからは、専門的で、本当に知りたい情報を得たい人は、自分で研究論文を読破できる知識を身につけるか、電子ブックを購入していただけるようお願いします。
以下は、昨日に発行したばかりの電子ブック(「あらゆる有機物から肥料を作る方法」)です。この本には、さまざまなタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の利用法など、これまでの本には書いていない、最新の知見をたくさん入れています。さらに詳細な情報を得たい方のために、引用文献・参考文献も掲載しています。

あらゆる有機物から肥料を作る方法
電子園芸BOOK社 (2016-07-29)

 

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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