作物の1日の生育モデルを考える:Growth model of a day of plants

 

せっかくなので、作物の1日の生育についてもまとめようと思ったのだが、これがかなりの難物だ。教科書には書かれていないし、データもほとんどない。しょうがないので、「植物はもっとも合理的、効率的な生理反応をするはず」という前提に基づいて、理論的に考えてみる。温帯の植物でわかっていることは、おおよそ以下のとおり。

①光合成は昼に行われる。
②光呼吸が小さい場合は、光合成速度は光の強さに比例する。
③組織合成は、おもに夜におこなわれるらしい(前回ブログ参照)。ただし、植物の根は、昼間に細胞分裂することは昔から観察されている。
④硝酸イオン濃度(地上部)は、1日の周期で変動しており、夜に高く、昼に低くなる(下図、文献参照)。
nion
⑤太陽の日射量に比例して、たくさんの水分を葉から蒸散する(=根から吸水する)。(下図、文献参照)。
蒸散量イチゴ
⑥夜間の蒸散量は、条件によって異なるが、昼の10%くらいである(文献参照)。
⑦植物の気孔は青色光などの刺激で開き、アブシジン酸などの働きで閉じる(下図、文献参照)。
気孔
気孔2

まず、植物の複雑な構造を単純化して整理してみる。温帯の植物は、昼にたくさんの水を根から吸収し、葉から蒸散させている。ふつう、生物は、水が体内にたくさん入ってきても、代謝生理に影響はでない。たとえば、人間は、大量の水を飲んでも、血液の濃度はまったく変動しない。もしも、水を飲むたびに、血液の濃度が大きく変動するようなことになれば、代謝反応をうまく進めることができなくなって死んでしまう。水を飲むことは命がけになる。代謝反応は、人間も植物も同じである。つまり、人間が消化器官の内壁(境界)で体内と外界を隔てているように、植物の導管内水と師管内水は、境界によって分離していなければならない。さらに、人間の血液の濃度が一定なように、師管内の樹液の濃度は一定でないといけない。つまり、夜に地上部の硝酸イオン濃度が高いのなら、夜の地下部の硝酸イオン濃度は低くなければいけない。昼は逆に地上部の養分濃度は低くなるので、地下部の養分濃度は高くなるのが道理だ。

そもそも、植物が硝酸イオンを集める(濃度を高める)おもな目的は、窒素からタンパク質を合成して生長するためだ。植物は一般に旺盛に生長する生育初期に、養分濃度が高くなる。養分濃度が高いということは、水の量が少ないということであり、じっさいに生長する前段の状態にあることを意味する。養分濃度が一番高い時点は、生長速度の時間変化量(=加速度)が一番大きい時点と一致する。

植物は、活性酸素による阻害をさけて夜に生長するらしいので、夜に地上部の硝酸イオン濃度が高くなるのは合理的な現象だ。一方、根のほうは昼に養分濃度が高くなることが予想されるので、昼に生長していると思われる。地下部は光合成をしているわけではないので、活性酸素の発生が多くなく、根の生育を阻害しないのであろう。

昼に大量の水を吸収しているときに、土壌中の養分も一緒に吸収される。しかし、水と一緒に養分を地上部に送るのはまずい。地上部では水がどんどん蒸発するので、葉に無機養分が蓄積してしまうからだ。じっさいに昼間は地上部の養分濃度は低いのであるから、無機養分の多くは地下部(もしくは貯蔵部)にとどまっており、ほとんど水だけが地上部に送られている。

植物が水を吸収するのは、水ポテンシャルと根圧によると考えられている。水ポテンシャルの機作は近年研究が進んでいて、導管は1本のストローのようになっている。このストローを途中で切ると、吸水できなくなるはずだが、ヘチマ水がとれることから、植物は根圧によっても吸水していると考えられている。この根圧のメカニズムはよくわかっていない。しかし、ヘチマ水は、夜にたくさん出ることから、根圧は、師管系に由来し、師管内水は夜間に地下部から地上部に上昇していることがわかる。

植物に果実がなっている場合は、根に同化産物(糖分)を送る時間帯に、果実にも糖分を送るのが効率がよい。一方、花芽や果実の生長組織は、細胞分裂がおきて新たな組織が形成されているので、地上部が生長する夜に、生長するのが効率的だ。なお、トマト、キュウリ、ナス、施設イチゴなどの主要作物では、花芽分化と果実の生長肥大が連続しておきている。以上をもとに、構造と生育のモデルを作ってみる。

植物の構造1

1日生育1

1日生育2

上のモデルが、じっさいの作物の栽培とあっているのかみてみる。水分の吸水量は、光合成速度におおよそ比例するので、かん水は朝から昼すぎくらいまでに行ったほうがよい。これは、昔から経験的に農家や園芸家がおこなっていることで、矛盾はない。最近の促成栽培では、日中にハウス内が乾燥すると、気孔が閉じてCO2を吸収できなくなるので、早朝からハウス内湿度を高く保つ管理が行われるようになっている(飽差管理)。

昼に地下部の養分濃度が高く、夜に地上部の養分濃度が高くなるので、鉢上げ、定植など、根を伸ばしたいときの栽培管理は、午前中に行ったほうがよい。接木は、地上部に師管内水が上昇する夕方に行ったほうがよい。これらも、農家の間では昔から経験的に言われていることである。なお、接木のあとに萎れを恐れて湿度を高く管理する人がいるが、どうせ夜間は気孔が閉じているので蒸散には関係がない。あまり湿度を高くしないほうが、病気の侵入を防げる。

昔から、植物は夜に生長するといわれているが、じっさいに植物の伸長量を測定すると、朝も夜も同じ量だけ伸長しているという報告がある。この生長モデルでは、朝に測定しても夜に測定しても同じ伸長量になるので矛盾はない。

集荷などの問題を度外視すれば、ホウレンソウやコマツナなどの葉菜類は、葉の硝酸イオン濃度が低く、かつ葉に同化養分(糖分)が多い、午後から夕方にかけて収穫すると、エグミが少なく糖度が高い野菜が食べられる。川上村などのレタス産地では、深夜から収穫が始まるが、レタスはもともと硝酸イオン濃度が低いので、養分濃度が高く、かつ品温が低い深夜のほうが鮮度が長持ちするのであろう。食べる前に水で洗うので、濃度が高いほうが、すぐに吸水してパリッとなるので都合がよい。

果樹や果菜類(トマトなど)のように、糖度を重視する果実の場合は、果実の組織生長(肥大)が停止して、かつ糖分の蓄積量がもっとも多いときに収穫するのがよい。モデルから判断すると、深夜から夜明け前にかけての時間帯になる。夏の暑い時期は、農家の年寄りは、夜明け前から畑に出て一仕事する。農作物がもっともおいしい時間帯を経験的に知っているのであろう。「早起きは三文の徳」ということわざもある。

なお、哺乳動物の多くは夜行性だが、天敵爬虫類から逃れるだけでなく、深夜のもっとも果実が甘いときとか、草が甘い夕方の時間帯に食べているのかもしれない。草食の哺乳類は、植物の種子の拡散者なので、植物にとっても動物にとっても合理的である。(以上はあくまでも仮説です)

文献
野菜の硝酸イオン低減化マニュアル
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/shousanmanual.pdf
いちご「とちおとめ」の蒸散量
http://www.pref.tochigi.lg.jp/g61/seika/documents/sep_020_23.pdf
暗期の湿度がキュウリ幼植物の生育、蒸散、養分吸収、乾物生産に及ぼす影響
http://www.pref.chiba.lg.jp/lab-nourin/nourin/kenkyuuhoukoku/documents/carc02_p001_011.pdf
気孔の開口を駆動する細胞膜H+-ATPase
http://lifesciencedb.jp/dbsearch/Literature/get_pne_cgpdf.php?year=2006&number=5107&file=UUtFs1ZHSubA7XX8HlqUjQ==
新しい気孔閉鎖メカニズムを発見
https://www.kyushu-u.ac.jp/f/1215/2013_02_18.pdf

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズ(農文協)など

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