種あり(有核)の果実はなぜ糖度が高くなるのか?

ブドウ栽培などでは、よく知られていることであるが、ジベレリン処理して単為結果させて種無し(無核)にすると、果実の粒は大きくなり、果実糖度は低くなる。シャインマスカットの場合は、有核の果粒重が9.9gに対して、無核の果粒重は12.0gになる(下の表)。また、有核の糖度が20.6%に対して、無核の糖度は19.4%に下がる。さらに、一般に、ブドウの房を大きくして粒数を多くすると、やはり果実糖度が下がる。

シャイマス

トマト栽培でも、トマトトーンで単為結果させるより、マルハナバチを放飼して交配・結実させたほうが糖度が高くなると経験的にいわれている。では、単為結果させて種無しにすると、どうして果実が肥大して、糖度が低くなるのであろうか?

植物の構造1

前回のブログに書いた植物の構造と生育のモデルで考えてみると、夜に果実が生長するときに、窒素、リン酸、カルシウムなどの無機養分や糖分が、果実の組織の生長に使われる。このとき、単為結果した果実には種子がないので、本来は種子の生長に使われる分の養分が、果実の肥大に使われると考えられる(ただしこのときの植物ホルモンの機作はよくわからない)。果実が肥大すると、果実の容積が増える。一方、光合成によって生産される糖分の量は、光エネルギーの利用量に依存するので、果実に蓄積される糖分の量は変わらない(分配比率は植物によって最適化されているのであろう)。種無しの果実は容積が増大しているために、結果的に糖分の濃度が低くなる。これが、種無し果実が大きくなって、糖度が下がる理由と考えられる。ブドウ果実の粒数が多くなると糖度が下がる理由は、種子の有無とは別の話だが、糖分量に対して果実体積が大きくなるために、やはり糖分濃度が低くなる。

トマトの単為結果果実には空洞果が多いことや、交配した果実との糖度の違いも同じ理屈で説明できる。ただ、トマトの味は、糖分濃度による「甘さ」だけでなく、「うま味」とか「酸味」とか「コク」とかに左右される(ブドウもそうだけど)。すなわち、トマトの味は、糖分、アミノ酸、有機酸、無機養分などの濃度に影響されると考えられる。オランダのトマト品種と日本の品種を比較した試験によると、日本の品種は収量では劣るが、糖度、アミノ酸、有機酸の濃度は高い(文献参照)。これは、トマトをサラダで食べることが多い日本人の習慣に合わせて、育種がおこなわれてきた結果だ。最近は、オランダの施設園芸のやり方ばかりが注目されるが、逆に日本の野菜品種のすばらしさをもっと海外にアピールしたほうがいいのではないか。

糖度

トマトアミノ酸

なお、近年、分子生物学の進展によって、味覚のメカニズムの解明がすすんでいる(文献参照)。ただ、食べ物に含まれる甘味物質、うま味物質、苦味物質、酸味物質、塩味物質を定量的に計ることができたとしても、その人がじっさいに感じている食べ物の味を知ることはできない。なぜなら、人間が食べ物を摂取するのは、生存するためであり、生存のために摂取する栄養分の種類や量は、生存条件によって変化するからだ。たとえば、夏の暑い日に運動して汗をたくさんかいた人に、一番必要な物質は水であり、どんなに甘いケーキやうま味たっぷりのステーキよりも、水そのものとかスイカをおいしいと感じる。すなわち、生物は、自分の現在の身体のおおよその代謝条件とか栄養状態を「認知」しており、「自己の状態」と「食べ物」を比較しながら、摂取するべきかどうかを判断している。逆にみれば、自分がどんな食べ物を「うまい」と感じるのかを注意深く観察すれば、現在の自分の生存環境や自分の生存状態を認識することができるのではないだろうか。

文献
品種詳細-シャインマスカット
http://www.naro.affrc.go.jp/patent/breed/0400/0411/001262/
ブドウ「巨峰」無核果実の成熟過程における品質の特性
http://www.naro.affrc.go.jp/org/karc/seika/kyushu_seika/2007/2007177.html
日蘭トマト品種の果実成分と収量性
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/vt_bulletin_14_20150310_4.pdf
「おいしさ」を感じる仕組み〜味覚と嗅覚の生理学
https://sites.google.com/site/coffeetambe/coffeescience/physiology/tasteandodor

 

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作物の1日の生育モデルを考える:Growth model of a day of plants

 

せっかくなので、作物の1日の生育についてもまとめようと思ったのだが、これがかなりの難物だ。教科書には書かれていないし、データもほとんどない。しょうがないので、「植物はもっとも合理的、効率的な生理反応をするはず」という前提に基づいて、理論的に考えてみる。温帯の植物でわかっていることは、おおよそ以下のとおり。

①光合成は昼に行われる。
②光呼吸が小さい場合は、光合成速度は光の強さに比例する。
③組織合成は、おもに夜におこなわれるらしい(前回ブログ参照)。ただし、植物の根は、昼間に細胞分裂することは昔から観察されている。
④硝酸イオン濃度(地上部)は、1日の周期で変動しており、夜に高く、昼に低くなる(下図、文献参照)。
nion
⑤太陽の日射量に比例して、たくさんの水分を葉から蒸散する(=根から吸水する)。(下図、文献参照)。
蒸散量イチゴ
⑥夜間の蒸散量は、条件によって異なるが、昼の10%くらいである(文献参照)。
⑦植物の気孔は青色光などの刺激で開き、アブシジン酸などの働きで閉じる(下図、文献参照)。
気孔
気孔2

まず、植物の複雑な構造を単純化して整理してみる。温帯の植物は、昼にたくさんの水を根から吸収し、葉から蒸散させている。ふつう、生物は、水が体内にたくさん入ってきても、代謝生理に影響はでない。たとえば、人間は、大量の水を飲んでも、血液の濃度はまったく変動しない。もしも、水を飲むたびに、血液の濃度が大きく変動するようなことになれば、代謝反応をうまく進めることができなくなって死んでしまう。水を飲むことは命がけになる。代謝反応は、人間も植物も同じである。つまり、人間が消化器官の内壁(境界)で体内と外界を隔てているように、植物の導管内水と師管内水は、境界によって分離していなければならない。さらに、人間の血液の濃度が一定なように、師管内の樹液の濃度は一定でないといけない。つまり、夜に地上部の硝酸イオン濃度が高いのなら、夜の地下部の硝酸イオン濃度は低くなければいけない。昼は逆に地上部の養分濃度は低くなるので、地下部の養分濃度は高くなるのが道理だ。

そもそも、植物が硝酸イオンを集める(濃度を高める)おもな目的は、窒素からタンパク質を合成して生長するためだ。植物は一般に旺盛に生長する生育初期に、養分濃度が高くなる。養分濃度が高いということは、水の量が少ないということであり、じっさいに生長する前段の状態にあることを意味する。養分濃度が一番高い時点は、生長速度の時間変化量(=加速度)が一番大きい時点と一致する。

植物は、活性酸素による阻害をさけて夜に生長するらしいので、夜に地上部の硝酸イオン濃度が高くなるのは合理的な現象だ。一方、根のほうは昼に養分濃度が高くなることが予想されるので、昼に生長していると思われる。地下部は光合成をしているわけではないので、活性酸素の発生が多くなく、根の生育を阻害しないのであろう。

昼に大量の水を吸収しているときに、土壌中の養分も一緒に吸収される。しかし、水と一緒に養分を地上部に送るのはまずい。地上部では水がどんどん蒸発するので、葉に無機養分が蓄積してしまうからだ。じっさいに昼間は地上部の養分濃度は低いのであるから、無機養分の多くは地下部(もしくは貯蔵部)にとどまっており、ほとんど水だけが地上部に送られている。

植物が水を吸収するのは、水ポテンシャルと根圧によると考えられている。水ポテンシャルの機作は近年研究が進んでいて、導管は1本のストローのようになっている。このストローを途中で切ると、吸水できなくなるはずだが、ヘチマ水がとれることから、植物は根圧によっても吸水していると考えられている。この根圧のメカニズムはよくわかっていない。しかし、ヘチマ水は、夜にたくさん出ることから、根圧は、師管系に由来し、師管内水は夜間に地下部から地上部に上昇していることがわかる。

植物に果実がなっている場合は、根に同化産物(糖分)を送る時間帯に、果実にも糖分を送るのが効率がよい。一方、花芽や果実の生長組織は、細胞分裂がおきて新たな組織が形成されているので、地上部が生長する夜に、生長するのが効率的だ。なお、トマト、キュウリ、ナス、施設イチゴなどの主要作物では、花芽分化と果実の生長肥大が連続しておきている。以上をもとに、構造と生育のモデルを作ってみる。

植物の構造1

1日生育1

1日生育2

上のモデルが、じっさいの作物の栽培とあっているのかみてみる。水分の吸水量は、光合成速度におおよそ比例するので、かん水は朝から昼すぎくらいまでに行ったほうがよい。これは、昔から経験的に農家や園芸家がおこなっていることで、矛盾はない。最近の促成栽培では、日中にハウス内が乾燥すると、気孔が閉じてCO2を吸収できなくなるので、早朝からハウス内湿度を高く保つ管理が行われるようになっている(飽差管理)。

昼に地下部の養分濃度が高く、夜に地上部の養分濃度が高くなるので、鉢上げ、定植など、根を伸ばしたいときの栽培管理は、午前中に行ったほうがよい。接木は、地上部に師管内水が上昇する夕方に行ったほうがよい。これらも、農家の間では昔から経験的に言われていることである。なお、接木のあとに萎れを恐れて湿度を高く管理する人がいるが、どうせ夜間は気孔が閉じているので蒸散には関係がない。あまり湿度を高くしないほうが、病気の侵入を防げる。

昔から、植物は夜に生長するといわれているが、じっさいに植物の伸長量を測定すると、朝も夜も同じ量だけ伸長しているという報告がある。この生長モデルでは、朝に測定しても夜に測定しても同じ伸長量になるので矛盾はない。

集荷などの問題を度外視すれば、ホウレンソウやコマツナなどの葉菜類は、葉の硝酸イオン濃度が低く、かつ葉に同化養分(糖分)が多い、午後から夕方にかけて収穫すると、エグミが少なく糖度が高い野菜が食べられる。川上村などのレタス産地では、深夜から収穫が始まるが、レタスはもともと硝酸イオン濃度が低いので、養分濃度が高く、かつ品温が低い深夜のほうが鮮度が長持ちするのであろう。食べる前に水で洗うので、濃度が高いほうが、すぐに吸水してパリッとなるので都合がよい。

果樹や果菜類(トマトなど)のように、糖度を重視する果実の場合は、果実の組織生長(肥大)が停止して、かつ糖分の蓄積量がもっとも多いときに収穫するのがよい。モデルから判断すると、深夜から夜明け前にかけての時間帯になる。夏の暑い時期は、農家の年寄りは、夜明け前から畑に出て一仕事する。農作物がもっともおいしい時間帯を経験的に知っているのであろう。「早起きは三文の徳」ということわざもある。

なお、哺乳動物の多くは夜行性だが、天敵爬虫類から逃れるだけでなく、深夜のもっとも果実が甘いときとか、草が甘い夕方の時間帯に食べているのかもしれない。草食の哺乳類は、植物の種子の拡散者なので、植物にとっても動物にとっても合理的である。(以上はあくまでも仮説です)

文献
野菜の硝酸イオン低減化マニュアル
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/shousanmanual.pdf
いちご「とちおとめ」の蒸散量
http://www.pref.tochigi.lg.jp/g61/seika/documents/sep_020_23.pdf
暗期の湿度がキュウリ幼植物の生育、蒸散、養分吸収、乾物生産に及ぼす影響
http://www.pref.chiba.lg.jp/lab-nourin/nourin/kenkyuuhoukoku/documents/carc02_p001_011.pdf
気孔の開口を駆動する細胞膜H+-ATPase
http://lifesciencedb.jp/dbsearch/Literature/get_pne_cgpdf.php?year=2006&number=5107&file=UUtFs1ZHSubA7XX8HlqUjQ==
新しい気孔閉鎖メカニズムを発見
https://www.kyushu-u.ac.jp/f/1215/2013_02_18.pdf

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植物の生長の謎

植物の生長については、じつはわかっていないことだらけだ。たとえば、「植物は1日のうちでいつ生長するのか?」とか、「植物に、いつかん水すればいいのか?」など、もっとも基本的な疑問についてさえ、科学的に明確に答えている文献を見たことがない。こうしたことは、ごく最近になって、少しづつそのメカニズムの一端が明らかになってきたに過ぎない。

たとえば、前回、合理的に推論すれば、植物が自分の生育量を把握しているのは、師管か道管のどこかにちがいないと書いた。最近、名古屋大学の打田直行氏らは、植物が背丈のサイズをコントロールする際の、引き金となる物質とスイッチの組み合わせを発見した(文献参照)。その活性物質(EPFL4とEPFL6)は茎の内皮組織で生み出され、一方の受容体(ERECTA)は茎の師部で働くという。すなわち、植物は背丈のコントロールについて、内皮から情報を発信し、その情報を師部で受け取るコミュニケーションをとっているらしい。ただし、植物は茎の細胞間で情報を伝達していることはわかったが、そもそも植物が、背丈をどのような仕組みでコントロールしているのかはわかっていない。

師管

また、伸長のメカニズムについても、オーキシンが関与していることは昔からわかっていたが、詳細な機作はわかっていなかった。最近、名古屋大学の木下俊則氏らは、以下のメカニズムを報告している(文献参照)。オーキシンが細胞膜プロトンポンプ(水素イオンを輸送するポンプ)のリン酸化レベルを上昇させて活性化する→水素イオンが細胞外へ放出され酸性化する→酸性化によって細胞壁がゆるみ膜電位も変化する→カリウムイオンが流入する→水が流入して細胞が大きくなる→植物が伸長生長するという。ただし、オーキシンには細胞を伸長させる適度な濃度があり、濃度が高すぎると逆に伸長を抑制する働きがある。この報告だけでは、その仕組みが説明できないので、さらに隠れた機作があると思われる。

オーキシンポンブ

また、天然オーキシンにはIAA(インドール-3-酢酸)とPAA(フェニル酢酸)がある。IAAが重力方向(下の方)に移動して、茎を上に曲げたり、根を下に曲げたりすることはよく知られている。先述のように、オーキシンは適度な濃度で伸長させ(茎)、濃度が高すぎると伸長抑制する(根)のでこうなる。理化学研究所の笠原博幸氏らによれば、IAAの輸送は重力に影響されるが、PAAの輸送は重力に影響されないという(文献参照)。植物が、PAAとIAAの両方で伸長や伸長停止をコントロールしているのは確かであるが、じっさいに植物が生活環境のなかで、どのようにこの2種類を使って生育をコントロールしているのかはわかっていない。

オーキシンpaa

さらに、植物は夜に生長するのか昼に生長するのかについても、基礎的な研究が、最近に報告されたばかりである。国立遺伝学研究所の宮城島進也氏らは、単細胞の藻類(紅藻)の細胞内には、1日を刻む生物時計があり、そのスイッチによって、細胞分裂は夜に引き起こされることを明らかにしている。なぜかといえば、昼は光合成や呼吸によって活性酸素が多く発生するため、活性酸素によるダメージが少ない夜に細胞分裂するという(文献参照)。活性酸素の存在は、生物の生存にとってきわめて重大な問題であり、この研究が進めば、生物はどうして夜に眠るのかの理由も明らかになるであろう(つづく)。

光合成昼

文献
植物の背丈をコントロールするスイッチを発見!
http://bsw3.naist.jp/research/index.php?id=737
植物ホルモン・オーキシンによる植物の伸長生長のメカニズムを世界で始めて発見
http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20120418_sci.pdf
重力によって移動方向が変わらないオーキシンを発見
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150625_1/
昼に光合成、夜に細胞分裂が起こるのはなぜか?その謎を解明!
https://www.nig.ac.jp/assets/images/research_highlights/PR20140509.pdf

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C3植物(アスパラガス、イネ、トマト、果樹)の光呼吸時養分量モデル

前回は、多年草植物の年間の理想的な生育量と養分量のモデルを考えた。では、暖地のイネやアスパラガスの栽培では、どのようなことがおこっているのであろうか?

北海道で露地アスパラガスが萌芽し始めるのは、5月上旬だが、九州のハウス半促成栽培では、2月下旬から萌芽が始まる。つまり、2ヶ月以上も早く生育が進む。

アスパラガスとイネの光飽和点は、4~5万ルクスであることは先述した。一方、真夏のころの西南暖地では、圃場の照度は10万ルクスを超える。さらに、盛夏期のハウス内の温度は、40℃以上になる。この条件のもとでは、C3植物は、光呼吸が光合成速度を上回り、同化産物が減少して生育が衰えるのは確実だ。じっさいのアスパラガスの試験データでも、8月の現物重、乾物重は減少する。これは、長崎のみならず、北海道の試験データでも減少している。また、イネの場合は、近年、高温障害による白未熟粒が大問題になっている(ただし、イネの高温障害は、光呼吸と関係付けて研究されていない)。

以上のように、生育期間が長く、かつ夏季の高温高日照で生育量が低下する場合のモデルを作ると、以下のようになる(数式はあまりにも煩雑なため省略)。

図24-1

図24-2

図24-3

図24-4

図24-5

図24-6

この暖地の養分量モデルでは、生育初期に、生育速度が最大になった直後に、地上部と吸収根の養分濃度と養分量が減少する。また、冷涼地の養分量モデルでは、生育量が最大になる盛夏期に養分濃度が減少するのに、暖地モデルでは、盛夏期に養分濃度が高くなる。養分濃度、養分量の時間変化は、長崎県の試験データとよく似ている。施肥量をみると、生長期の途中で、一時的に窒素を中断するのが、植物に対してよけいなストレスがなく、合理的である。ストレスが少ないということは、植物にとっては、よけいなエネルギーコストがかからないということであり、病害虫侵入のリスクも小さくなる。

イネやアスパラガスが、高温高日照の夏季に生育量を小さくすることは、光呼吸によるコスト増大を少しでも小さくするという意味で、きわめて合理的な反応だ。このモデルでは、じっさいの生育量の時間関数から、理論的に養分量と養分濃度の変化を予測しているが、アスパラガスやイネからみると、生育量を決定するためには、そのかなり前に、生育力(エネルギー)を使って養分濃度を変化させなければならない。すなわち、イネやアスパラガスは、将来におきることをあらかじめ予測しているということになる。じっさいに、生育途中でイネの葉色が薄くなったり、茎葉生長期にアスパラガスの養分量が減少するのは観測的事実なのであるから、植物が将来におきることを予測して反応していることは確実である。では、イネやアスパラガスは、どのようにして将来を予測しているのであろうか?

植物は、日周期や年周期など、いくつかの体内時計を持っていることはよく知られている。時計が無ければ、種子や根株が休眠から覚醒する時期がわからないし、昆虫の活動する時間にあわせて花を咲かせることもできない。さらには、気孔を開く時間帯とか、落葉の時期とかもわからなくなってしまう。ちなみに、海の生物は大潮の時期を知っているので、重力周期時計を持っているはずだ。とにかく、植物は、等速円運動する地球の動きによって周期的に変化する光エネルギーに生存がかかっているのであるから、人間の何百倍も時間にうるさいはずである。しかも、人間の何千倍も長く地球上に生きており、人間よりも何倍も多くの時計やカレンダーを持っていると思われる。

たとえば、植物は温度を把握することができるが、温度と体内時計とを組み合わせて積算温度を把握している。さらに、照度も認識しており、タケノコは日当たりのよい場所から出てくるし、樹木の潜芽も日が当ると分化しはじめる。1回だけ日光があたっただけでは、日当たりがよいかどうかわからないので、当然「積算照度」も把握しているはずだ。さらに、たとえば、ひまわりは太陽を追いかけることができるので、太陽光線の照射角度や照射角度の日日変化量なども機械的に把握していると思われる(把握していなければ予測できないし、予測していなければ運動する組織を構築できない)。さらに、光合成には2種類の光を利用するので、周波数ごとの光の時間変化を把握していてもおかしくない。まさに、植物にとって、太陽は世界の中心だ。

図25

上の図のように、植物は、体内時計にもとづいて、自分の生存する環境条件に、もっとも最適な、時期ごとの生育量の基準を持っていると考えるのが合理的だ。イネやアスパラガスは、基準よりも生育が進みすぎている場合は生育にブレーキをかけたり、あるいは、逆にアクセルを踏んだりしていると思われる。もちろん、生育が進みすぎたり遅れたりすれば、光エネルギー量のピークに、生育量のピークをもってくることができなくなるからだ。

植物は、自分で太陽のエネルギー量を決定することはできない。植物が自分で決定できるのは、エネルギー量=同化量を予測して、それに見合った水分量と養分量を用意することだ。すなわち、時期ごとの基準養分量をもっていることになる(下の図)。養分量は全身の積分値なので、細胞の中のDNAが、会社の経理が在庫を集計するように、全身養分量を合算することは無理であろう。しかし、工場の玄関の前に立って、1日に工場から出荷される製品の量(炭水化物)や工場に搬入される原材料の量(水、無機養分)から、工場の大きさ(養分量、生育量)を把握することは可能である。すなわち、篩管と導管のどこかで、1日の同化産物などの流量から、現在の養分量≒生育量を把握していると考えられる。(つづく)

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アスパラガス、イネ、トマト、果樹の養分量変化の謎に挑戦

リンの話は、つづきの文章ができていないので…。以前からアスパラガスのことを調べているのだが、調べれば調べるほど、アスパラガスはイネに似ている。両方とも単子葉植物の多年草で、どんどん分げつしながら株を大きくして栄養繁殖し、秋には種子繁殖もする。養分量についても似た反応がみられる。

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上の試験データは、アスパラガス栽培にたずさわる人はよく知っていると思うが、1982~83年に北海道中央農試で行われたアスパラガスの施肥試験である。表のように、茎葉がもっとも急生長している6月に窒素供給を中断すると、連続供給した標準区よりも茎葉の量はかなり少なくなるが、翌年の収穫量はむしろ多くなる。施肥配分も試験されており、春:夏=1:3のときがもっとも成績がよい。以来、今日にいたるまで、このデータが露地アスパラガス栽培の施肥基準になっている。しかし、どうして、茎葉がもっとも生長する時期に窒素を中断すると増収するのかは謎である。

暖地の稲作農家なら、これと似た話をすぐに思い浮かべるだろう。暖地の稲作では、密植して生育初期に窒素を多投すると、茎数が増えすぎて過繁茂になり、下位節間も伸びる。こうなると病害虫にすぐにやられるし、かんたんに倒伏して減収する。最近では、暖地の指導機関の多くは、疎植、晩植え、基肥減肥を奨励するようになっているのではないか。幸いなことに、アスパラガスは、北海道から九州まで春~秋に栽培されていて、寒地と暖地の両方の試験データがある。さらに、春先に貯蔵養分で生育する植物なので、地上部だけでなく、地下部の測定データもある(研究者の努力に感謝)。asukara2

上のデータは、1994~1995年に長崎県総農試で、2~3年生のアスパラガスで行われた試験である。地上部無機養分含有率(濃度)は、茎葉がもっとも生長する5~6月に、すべての養分が減少する。これは、イネでも見られる現象で、葉色診断すると、穂首分化期=第4節間伸長期のころに、葉の色が薄くなる。イネの場合は古来より「稲に三黄あり」のことわざさえ残っている。昔からこのような現象について、研究者たちは、「急速な生長に養分吸収が追いつかず、一時的に濃度が薄まる」と考えてきた。

しかし、表の右の地上部の1株当り無機養分含有量でみると、5月に養分量が減少している(カリは6月)。無機養分含有量というのは、絶対量であって濃度ではない。濃度=含有量÷現物重なので、生長期に現物重が急増するために、濃度が薄まったという話ならわからないこともないが、含有量そのものが減ることは説明がつかない。植物が生長するというのは、細胞分裂がさかんに行われて、身体組織が新しく作られるということだ。細胞を新しく作るには、エネルギーと材料が必要だ。光合成によってできた炭水化物がエネルギー源であり、炭水化物と根から吸い上げた窒素N、リンP、カルシウムCa、マグネシウムMgなどが組織の材料になる。なお、カリウムKは組織そのものを構成するわけではなく、細胞内浸透圧の維持、酵素機能の維持、膜電位形成に寄与していると考えられている。アスパラガス栽培では、茎葉がもっとも生長している時期に、組織形成の材料(無機養分)の総量が減るという、生物の代謝反応からはおよそ説明がつかない現象がおきている。

じつは、このような現象がおきるのは、アスパラガスやイネだけにとどまらない。昔から夏秋栽培のトマトやキュウリの篤農家たちは、苗の生長期に、しおれるほどかん水量を減らしたり、窒素を切らして、苗作りを行ってきた。そのほうが、病害虫に強く、夏季の樹勢低下がおきにくい株になる。また、1990年代に静岡県柑橘試験場の中間和光氏は、ミカンの施肥について、春先の施用ではなく、6月末と10月上旬に施用すると、貯蔵養分が増え、連年結果と品質向上につながると報告している。岩手大学の壽松木章氏も、リンゴ、モモの施肥時期について、新梢が伸びる春ではなくて、秋に基肥を施用したほうが、効果が高いことを指摘している。

私にとってこの問題は、30年近く頭を悩ませてきた難問であり、農家や研究者に話を聞いたり、文献を調べても、納得できる答えを得られたことがない。とくに研究者からは、「篤農家の特殊な技術」として片付けられることがほとんどで、今後も、研究者が、この問題に取り組むことはあまり考えられない。死ぬまで待っていても、誰も解明してくれそうにない。死ぬまで待つくらいなら、自分で一から考えることにした。

アスパラガス、イネ、トマト、果樹などに共通するのは、これらは「涼しい気候」または「弱い日照」を好むC3植物であるということだ。イネは高温の熱帯・亜熱帯の植物だが、野生のイネ属植物は、森林の中の日光があまりあたらない水際に生息している(参照:「自然スズメノテッポウ野草緑肥米」はどうです?)。イネの光飽和点はアスパラガスと同じ4~5万ルクスである。トマトは南米の日照が強い赤道付近の原産で、光飽和点は7万ルクスだが、冷涼な高山地帯に分布しており、昼温25~28℃、夜温15℃程度の涼しい気候を好む。リンゴ、モモなどバラ科の落葉果樹も、涼しい気候を好み、光飽和点は4万ルクスだ。柑橘類は亜熱帯地方の原産だが、もともと森の中の日陰に育つ植物であり、光飽和点は3~5万ルクスである。すなわち、これらの植物の特異な養分量の変化は、「涼しい気候」または「弱い日照」を好むというところにポイントがあるはずだ。

まず、植物のあらゆる生理反応は、すべて合理的かつ効率的に仕組まれているということを前提にする。植物は、自分が生息している環境で、生存にもっとも効率がよい反応(最適化)をとらなければ、ライバル植物との競争に敗れて、とっくに絶滅しているはずだ。被子植物が2億年も生きているのならば、現在まで生き残っている植物種は、きわめて合理的かつ効率的な生き物ばかりであるに違いない。

植物が生存する上で必要なものは、資源物質とエネルギーである。自己を作る物質と、物質を変化させるためのエネルギーがなければ生存できない。ただ、作物の場合は、資源物質のO、C、H、N、P、K、Ca、Mgなどは、環境と人間から十分に与えられるので、作物の競争力=生育力を左右するのはエネルギーである。エネルギーは、植物工場でない限り、すべて太陽の光エネルギーに依存している。この光エネルギーをもとに、植物の生理反応を考えることにする。

1年間の時間変化をt、光エネルギー量の光合成利用分をeとする。アスパラガスが萌芽してから枯れるまでの期間に利用する時間当たりエネルギー量を以下の式で近似する。

e(t)=h(1-cost)                  t0≦t≦t3

アスパラガスは、イネと同じ多年草で、春に発芽して茎葉と根を伸ばし、秋に地上部は枯れるが、地下の根株が休眠して越冬する。翌春に休眠から目覚めて萌芽し、茎葉を繁茂する。このサイクルを繰り返して、根株を大きくしながら、二十年くらい生息する。地下部は、地下茎、貯蔵根、吸収根にわかれ、太い貯蔵根で養分貯蔵を行い、細い吸収根で養分吸収を行う。

植物は資源とエネルギーをめぐって激しく競争し、日光のエネルギーを効率よく最大限に利用した種がライバルに勝って生き残ることができる。植物は、光合成によって同化産物(炭水化物)を合成し、同化産物をもとに樹体を形成する。日光がもっとも強い時期に、樹体をもっとも大きくして、エネルギーを少しでも多く集めるのが合理的だ。同化量は太陽からのエネルギー量に比例し、植物の地上部生育量は同化量に比例する。すなわち、地上部生育量はエネルギー量に比例する。根から地上部へ水と無機養分が供給され、地上部から根に、同化産物が供給される。地上部が大きいほど根も大きくなるので、地上部生育量(現物重)uと吸収根生育量(現物重)rは比例する。貯蔵部蓄積量(現物重)sは、地上部と吸収根の生育がもっともさかんなときにゼロになり、地上部と吸収根の生育量がゼロになったときに最高になるのがもっとも合理的である。

なお、1年の生育終了時に、セルロース、リグニンなどでできた茎などが残るが、これらは一旦合成されると元の糖にもどすことはできず、ライバル植物にも共通にかかるコストと考えて無視する。樹木では、これらは木質として蓄積されるが、大きさが安定している条件で考える。

各部の生育量を時間で微分すれば、生育速度vが求まり、生育速度を微分すれば生育加速度aが求まる。植物の生育力gは、代謝量mと生育加速度aの積に比例する。常温帯では、代謝量mは温度qに比例し、温度qは光エネルギー量eに比例するので、代謝量mはエネルギー量eに比例する。なお、代謝量mは、養分、O2などにも左右されるが、これらは過不足なく供給される条件で考えて無視する。

植物の体の大部分は水なので、植物が生長するときに、もっとも多く必要とする物質は水である。また、土壌中から水を吸収するときに、水と一緒に養分も吸収する。水を外界から効率よく体内に取り込むには、樹体の養分濃度を高くするのが合理的だ。一般に植物は旺盛に生長する生育初期ほど養分濃度が高いので、養分濃度は生育力と比例していると考えられる。樹体の中で多い無機養分はカリウムと窒素だが、窒素は組織合成に使われる養分なので、ここでは窒素の養分量で考える。生育力gはマイナスの値をとることがあるが、窒素養分濃度cは常にプラスの値をとるので、窒素養分濃度cは、生育力g+kに比例する(kは定数)。窒素養分量nは、窒素養分濃度c×現物量で計算できる。貯蔵部蓄積量sは翌年に繰り越されて、当年の植物の生長には使用されないので、窒素施肥量fは、全体の窒素養分量nから貯蔵部窒素養分量nsを引いて、土壌からの流亡量dを足したものにほぼ等しくなる(若年株ではf>n-ns+d)。以上の数式と図を以下に示す。

エネルギー量曲線に基づく養分量モデル
多年草(春~秋作、イネ、トマト、アスパラガス、果樹など)

光エネルギー量(利用量)e
e=h(1-cost)                                    t0≦t≦t3

地上部生育量(現物重)u
u=hu(1-cost)                                 t0≦t≦t3

地上部生育速度vu
vu=du/dt=hu・sint                        t0≦t≦t3

地上部生育加速度au
au=dvu/dt=hu・cost                       t0≦t≦t2

吸収根生育量(現物重)r
r=hr(1-cost)                                   t0≦t≦t3

吸収根生育速度vr
vr=dr/dt=hr・sint                           t0≦t≦t3

吸収根生育加速度ar
ar= dvr/dt=hr・cost                         t0≦t≦t2

貯蔵部蓄積量(現物重)s
s=hs(1-cost((t-t1)/2))                   t0≦t≦t3

貯蔵部蓄積速度vs
vs=ds/dt=1/2・hs・sin((t-t1)/2)                  0≦t≦t3

貯蔵部蓄積加速度as
as=dvs/dt=1/4・hs・cos((t-t1)/2)                0≦t≦t3

生育力g、代謝量m、生育加速度a、温度q、光エネルギーe、定数k。常温帯で
g∝m・a
m∝q、q∝e
ゆえに
g∝a・e
g=k・a・e
g u=k・au・e=ku・cost・(1-cost)
g r=k・ar・e=kr・cost・(1-cost)
g s=k・as・e=ks・cos((t-t1)/2)・(1-cost)

窒素養分濃度c
c∝(g+k)
cu=ku1・cost・(1-cost)+ku2
cr=kr1・cost・(1-cost)+kr2
cs=ks1・cos((t-t1)/2)・(1-cost) +ks2
※8k1>k2だと養分不足、8k1<k2だと養分過剰

部位窒素養分量nu、nr、ns
nu=cu・u=(ku1・cost・(1-cost)+ku2)・hu(1-cost)
nr=cr・r=(kr1・cost・(1-cost)+kr2)・hr(1-cost)
ns=cs・s=(ks1・cos((t-t1)/2)・(1-cost) +ks2)・hs(1-cost((t-t1)/2))

全身窒素養分量n
n=nu+nr+ns

窒素施肥量f、流亡量d
f≒n-ns+d          (若年株ではf> n-ns+d)

総窒素施肥料F
F=∫fdt

図23-1

図23-2

図23-3

図23-4

図23-5

これが、合理的かつ効率的な、多年草作物の生育量と養分量のモデルである。養分量の時間変化を見ると、きわめてスムーズな曲線を描いている。これは、土壌中の有機物が微生物に分解され、無機養分が発現するパターンとほぼ一致しており、自然界の土壌の養分供給と矛盾がない。(つづく、次回が本番)

参考文献
多賀辰義、1989、アスパラガス畑の肥培管理の合理化に関する研究
井上勝広、1996、半促成長期どりアスパラガスの養分動態、長崎県総合農林試験場研究報告
本田進一郎、2016、プロにまなぶ アスパラガスのつくり方、電子園芸BOOK社

プロにまなぶ アスパラガスのつくり方
電子園芸BOOK社 (2016-06-04)