進化と養分吸収、イチョウ科植物は恐竜と共に滅んだ?

ある植物Aが、生長期に1日で5%ずつ生長するとする。アブラナ科植物は、カリシウム型リン酸や有機態窒素を吸収できるので、Aよりも生育効率が3%高いとする。Aのn日後の生長量はa0×(1.05)n-1で計算でき、アブラナ科のほうはa0×(1.0815)n-1なので、a0に適当な数字を入れて計算すると、アブラナ科は23日くらいでAの2倍の大きさに育つ。これほど生育スピードに差があれば、アブラナ科は簡単にライバルたちを圧倒して、その場所から駆逐してしまうであろう。被子植物が登場してから2億年くらいたっているそうなので、いまごろ、世界中の植物が生育可能な地域は、アブラナ科だらけになっていてもおかしくない。しかし、じっさいにはそうなっていない。なぜだろうか?

有機態窒素のような大きな分子を根から取り込むということは、すばやく窒素を取り込んだり、そのエネルギーを利用できることの有利さはあるが、一方で、土壌中の寄生生物や病原生物も侵入しやすくなる。菌類、ストラメノパイル、ケルコゾア、細菌などの土壌中の寄生・病原生物は、植物の根の表皮細胞の隙間や根毛、あるいは根毛のキズなどから侵入するものも多い。根に、アミノ酸、ペプチド、たんぱく質のような大きな分子を取り込める隙間があれば、そこから微生物も侵入しやすくなるはずだ。そこで、アブラナ科植物は、侵入してきた生物に対する、防御機構を用意しなければならない。アブラナ科植物が有する辛味成分のアリルイソチオシアネート(AIT)は、草食動物に対する忌避物質といわれることが多い。しかし、じっさいの試験では、糸状菌(カビ、キノコ、放線菌)に対する抗菌作用がもっとも強いと報告されている。細菌への抗菌作用や、昆虫、動物に対しての毒性はそれほど強くない(文献参照)。

侵入生物に対する、防御機構のためのエネルギーコストが高くつけば、有機態窒素を吸収することの有利性はなくなってしまう。有機態窒素を吸収して防御機構を用意するか、無機態窒素を吸収してライバルに勝つ別の方法を用意するか、どちらが有利なのかは環境や偶然性で決まる。種の数が多い植物ほど、多様な環境に進出できたということなので、種数の多い植物をみてみると、キク科23000種、ラン科22000種、マメ科19000種、アカネ科13000種、イネ科10000種、シソ科7000種、トウダイグサ科5700種、ノボタン科5000種、フトモモ科4600種、キョウチクトウ科4500種などとなっている。

キク科とマメ科の多さを見れば、PA物質(ピロリジジンアルカロイド)と根粒菌共生は、被子植物の進化の過程で、きわめて有力な発明であったようだ。ラン科は、根に担子菌類と共生する特徴があり、アカネ科はアルカロイドを含む種が多い。これら以外で、栽培植物が多く含まれる科としては、サトイモ科4000種、セリ科3700種、アブラナ科3700種、バラ科2800種、ナス科2500種、バンレイシ科2200種、ヒユ科2000種、ミカン科1800種などがある。

yuzu
ユズ(ミカン科)のトゲ

生物進化から考えれば、バラ科(リンゴ、イチゴなど)やミカン科のようにトゲを有する植物は、大型の草食動物(爬虫類、哺乳類)が登場したあとに発展した種であることわかる。バラ科やミカン科は、身体をトゲで守っているので、草食動物がライバル植物を食べて空いた隙間(ニッチ)に侵入することができる。花粉は昆虫に運んでもらい、種子は鳥に拡散してもらう。植物は地上を歩き回ることはできないけれど、大型動物、昆虫、鳥類を利用してライバルを駆逐したり、軽々と遠方まで移動することができる。地球上の棲息可能な場所の隅々まで、生息域を拡大することも可能だ。まさにドーキンスの「延長された表現型」、あるいは「遺伝子の長い腕」だ(文献参照)。

大型の草食動物がいるということは、大型動物が食べられるほど豊富に植物が存在するということであり、土壌中の有機物も豊富に存在する。有機物が豊富ならば無機態窒素も十分に存在するので、無機態窒素を吸収するのが無難である。つまり、バラ科植物やミカン科の植物は、有機態窒素よりも無機態窒素をよく吸収する可能性が高い(調べてみなとわからない)。そうであるならば、進化の後ろのほうで登場した植物ほど、有機態窒素をあまり吸収しないのではないか…と思って調べてみると、植物の種分化のツリーの後ろのほうに登場するセリ科のニンジンは、きわめてよく有機態窒素を吸収する。この仮説にあわない。自然はきわめて複雑で多様であり、単純な見方は通用しない。

追記:ニンジンの原産地は、アフガニスタンの冷涼なヒンズークシ山麓と考えられている。ニンジンは、自然の状態では夏~秋に発芽して生長し、冬季には生育が停滞するがそのまま越冬する。冬季の低温に遭遇すると花芽分化して、翌春の長日温暖下で抽台、開花に至る。秋~春の低温期には土壌微生物の活動が弱まるため、有機物の無機化が停滞する。そこで、無機化する前の、有機態の窒素を吸収する機構が発達したのであろう。

生物進化と種子拡散者のことで思い浮かぶのはイチョウだ。裸子植物は、3億から1億年前に地球上に大繁殖したが、現在はソテツ門、イチョウ門、マツ門、グネツム門の4群しかなく、他は絶滅してしまった。イチョウ類は、2億年前には地球上に広く分布していたが、現在はイチョウ一種類しか生き残っていない。

栽培の起源についてはよくわかっていないが、文献上はっきりしているのは11世紀ごろの長江下流域という。また、イチョウの野生種は原産地の中国でも絶えたとされている。日本への伝来については諸説あるが、文献に現れるのは15世紀である。17~18世紀に、愛知県と岐阜県で大実系が選抜され、果実を目的に栽培されるようになった。イチョウは、被子植物とは比較にならないほど樹勢が強く、高さ40m幹径5mに達し、300年以上実をつける。温暖地を好むが、病害虫に対して強く、耐寒性もある。きわめて強健な植物で、樹齢1000年以上の樹もめずらしくない。

以前、果樹の本を作っているときに、イチョウの種子拡散者について調べたことがあるが、いくら調べても、それについて書いてある文献を見つけられなかった。イチョウの果実のギンナンは、樹の下に自然に落ちて、悪臭を放つ。臭いの主成分は酪酸とヘプタン酸で、鳥も動物もこの果実を食べようとしない。タヌキはギンナンを食べるという文献を見たことがあるが、もしタヌキが食べたとしても、種子を噛み砕いてしまう。これでは、種子拡散者にはならない。種子拡散者は、果肉だけを食べて、種子は排泄するような動物でないといけない。

そのような条件にあいそうな動物は、大型の爬虫類だけであり、すなわち草食恐竜だ。かつて大繁栄したイチョウ科植物は、恐竜が滅んでしまったために、有力な種子拡散者を失い、次第に衰退して絶滅してしまったのであろう。そして、唯一イチョウだけが、人間に栽培化されことで、絶滅をまぬがれた。

近年、イチョウ葉エキスには、脳の血流改善効果や痴呆症の改善効果があることが発見され、大きな関心をあつめている。すなわち、イチョウは、気温が下がる秋に恐竜に葉を食べさせて体温を高く保ち、運動能力を高めて、種子を遠くまで運ばせていたと思われる。イチョウ葉の効能の発見で、今まで以上に、イチョウは人間に重宝されていくであろう。恐竜の代わりに人間が種子拡散者になったことで、イチョウは絶滅寸前の状況から抜け出し、再び繁栄することができた。

ume
ウメ(バラ科)のトゲ

あと、トマトやピーマンは、有機質肥料の施用効果が硫安よりも低いとか、有機態窒素をあまり吸収しないと書くと、「トマトやピーマン栽培では、堆厩肥や有機質肥料の施用は不要である」と早合点する人がいるかもしれないが、まったくそういうことではない。有機態窒素よりも無機態窒素をよく吸収するということは、土壌中に無機態窒素が十分に存在するということである。無機態窒素が十分にあるということは、有機物(有機態窒素)がきわめて豊富に存在する土壌であることを意味する。文献には、「土壌中の窒素は、無機態で存在するのはわずか1%にすぎず、ほとんどが有機態で存在する(Nemeth et al.1988)」(植物のアミノ酸吸収・代謝に関する研究、3p)とある。有機態窒素をあまり吸収しない植物は、腐植などの有機物が豊富にある土壌条件に適応していると見るべきであろう。じっさいに、トマトの土耕栽培では、有機質に富む土壌がもっとも根群が旺盛に発達し、新根の発生も優れるとされている。トマト名人の若梅健司さんも、トマトの追肥時期が稲刈り作業と重なるため、肥効時期を調整してある「有機一発肥料」を試していて、「いい成績が上がっている」と書いている。

さらに、有機物の施用は、窒素の供給だけが目的ではない。拙文「腐植の成り立ちと機能」の繰り返しになるが、腐植の役割には以下のものがある。養分の貯蔵庫:腐植には、有機物として窒素、リンなどの養分が蓄えられている。有機物は土壌微生物によってゆっくりと無機化され、養分が植物に吸収、利用される。土壌団粒の形成:腐植物質には、金属イオンや粘土粒子を結合させる働きがあり、壊れにくいミクロ団粒を形成する。さらに、ミクロ団粒と粗大有機物が、菌類や放線菌の菌糸や微生物が生産する多糖類によって結びつけられて、マクロ団粒が形成される。陽イオン交換容量(CEC):腐植は粘土鉱物と同様に陽イオン交換を行ない、各種の金属イオンと錯体を形成してCECを高める(ただし、アルカリ土類金属やアルカリ金属、アンモニウムイオンなどの保持への寄与はあまり大きいとは言えないということはすでに書いた。参照:「窒素(硝酸イオン)が多いとなぜ作物はおいしくないのだろうか?」の解説、その1)。これらのほかにも、有機物の施用は、肥料としての効果、CO2施用の効果(施設)、地域の有機物資源の利用、リンなど希少資源循環、消費者へのアピール効果などがある。

※追記
イチョウの種子拡散者が恐竜という話は私が勉強不足で知らなかっただけで、すでに西田治文先生が指摘しておられました(『植物のたどってきた道』1998)

参考文献
アリルイソチオシアネートと2,3香辛料精油の抗菌性および変異原性
http://ci.nii.ac.jp/els/110000978632.pdf?id=ART0001155255&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1463791038&cp=
リチャード・ドーキンス、(1976)、『利己的な遺伝子』、紀伊國屋書店、増補新装版(2006)
イチョウ葉エキスの有効性および安全性
http://www0.nih.go.jp/eiken/chosa/IppannGingko.html
イチョウ葉エキスの薬理活性
http://ci.nii.ac.jp/els/110009585919.pdf?id=ART0010040159&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1463710910&cp=

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズ(農文協)など

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