「自然スズメノテッポウ野草緑肥米」はどうです?

「有機か無機か?」からのつづき。イネは、作物の中でもとくに有機態窒素をよく吸収する植物で、さらに、吸収したグルタミンから窒素だけでなく、わずかだがエネルギーも利用できるという(文献参照)。

これは、イネの植物としての性質からすればきわめて合理的だ。イネは、亜熱帯から熱帯にかけて分布する植物にもかかわらず、C3植物だ。亜熱帯・熱帯起源のイネ科作物といえば、サトウキビ、モロコシ、トウモロコシなどだが、これらはみなC4植物だ。光合成は、CO2を取り込んで固定し、O2を生じる反応だが、一方では光の照射によって、逆にO2を消費してCO2を産出する光呼吸がおきている。この光呼吸のために、エネルギーが浪費されている。光呼吸は、CO2の量が十分でないときに、光エネルギーを使いきれないので、光酸化から組織を守る反応と考えられている。C3植物は、夏の高温時に強い光をあびると、CO2を使い果たして、光合成のCO2固定よりも光呼吸が上回ってしまうことがある。このため、光合成能力には限界がある。一方、C4植物では、CO2を光合成細胞内に濃縮することで、光呼吸を完全に防ぐことができるので、高温で日照が強い場所(熱帯)では、C3植物よりも生長が速い。逆に、涼しい場所では光呼吸が負担にならないので、CO2固定のエネルギーが少ないC3植物のほうが有利になる。

イネ科イネ属の植物は20種ほどが知られているが、そのほとんどは多年草で、森の中の日陰の水際に生息しているという(文献参照)。水の中では、有機物の分解能力が高い真菌類(カビやキノコ)や好気性の細菌(放線菌や枯草菌など)が生息できないので、有機物の分解はゆっくりとしか進まない。さらに水中なので、有機態窒素が遊離しやすい。日照が少ない水辺で生息するC3植物のイネ属が、有機態窒素をよく吸収し、さらにそのエネルギーも利用できるというのは、きわめて理にかなっている。

有機態窒素施用がイネの生育に有利ならば、それを生かした栽培がいろいろ考えられる。群馬県や佐賀県のように裏作で小麦やビール麦を作ったり、大豆を輪作するのが農学的にはもっとも合理的だ。しかし、麦や大豆は機械、販売、制度など経営的なハードルがあるので、イネ単作のところがほとんどだ。

手っ取り早いのは、堆厩肥と有機質肥料を施用して、特別栽培米などで販売することだ。しかし、じっさいには、畜産地帯は北海道の東端と南九州に集中しており、水田に投入できるような大量の堆厩肥を確保するのは容易ではない。施設や撒布機械も必要になる。また、有機質肥料は、原料不足から価格が上昇し、コスト的に厳しくなっている。

では、レンゲ米とかクローバー米はどうだろうか。マメ科のレンゲやクローバーは、大気中の窒素を固定できるので、有機態窒素の供給にはぴったりだ。田んぼは紫色の花できれいだし、「レンゲ米」とか「四葉のクローバー米」とかで売ればイメージもいい。しかし、なにごとも思い通りにはいかないもので、レンゲやクローバーなどマメ科緑肥は、採種に手間がかかるため、種子の価格が高騰している。また、草が多い場合は、播種前に除草剤を撒布する必要もある。

そう考えると、福岡さんは本当の先駆者だったとつくづく思う。70年も前から、不耕起乾田直播とかコーティング種子(粘土団子)、クローバー草生、抑草効果の高いヘアリーベッチ草生、アヒル放飼(害虫を食べて窒素・リンを供給する)などを、たった一人で研究し実践していた。福岡さんに、「クローバー草生米麦連続直播で、大面積を大型機械で栽培した場合、自然農法と呼んでもいいですか?」と聞いてみたことがある。福岡さんは少し困ったような表情をしていたが、「理想の状態に近づくために努力しているという面を評価するという意味では、自然農法と呼んでもかまわないのではないか」と答えていた。方向さえ間違ってなければ、それほど柔軟な考えを持っていた(参照:農業技術者、農業指導者としての福岡正信)。

カラスノ

カラスノエンドウ(マメ科)。やせ地ならどこにでも生えている

マメ科植物以外では、ナタネ、コムギ、ライムギ、サクラワセ(イタリアンライグラス)などの緑肥も、水田の裏作で栽培できるし抑草効果もある。米を販売するときに個性化できるのもよい。ただし、種代と肥料代はかかる。

それなら、いっそのこと、秋に田んぼに尿素か硫安を撒いて、雑草を育てたらどうだ。それなら10a当たり窒素成分で3㎏撒いても、1haで6000~7000円だろう。レンゲの種より断然安いし、手間もかからない。雑草に肥料をやると水田雑草化する心配があるが、強害雑草のイヌビエ、タイヌビエ、コウキヤガラ、コナギ、ミズガヤツリなどは、秋には種子や塊茎で休眠しているので、影響はないはずだ。

実践家の事例では、稲刈りあとに生えてくる雑草は、スズメノテッポウ(イネ科)やセトガヤ(スズメノテッポウの近縁種)が多く、そのあとはカラスノエンドウ(マメ科)が増えてくるようだ。じっさいに、スズメノテッポウを緑肥に試験している農家もいる(文献参照)。スズメノテッポウは、田んぼの水が抜かれると発芽し、翌年5月に種子ができるので、代かきを遅くすると増える(麦作では強害雑草)。別に特別栽培米にしなくても、「自然スズメノテッポウ野草緑肥米」とでも名前をつけて売り出せばいいのではないだろうか。(敬語表現略)

テッポウ

スズメノテッポウ(イネ科)

追記

「植物のアミノ酸吸収・代謝に関する研究」の中で不可解なのは、トマトについての記述だ。トマトは、有機質肥料の施肥効果試験ではきわめて成績が悪い(図221)。しかし、3章のアミノ酸の影響の解析では、「Ghoshら(1950)は、クローバーにはアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、トマトにはアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、プロリンが無機態窒素源よりもよく利用され、タバコではどのアミノ酸も利用されなかったと報告している」と書かれている。ところが、表332を見ると、Ghosh(1950)のトマトの項で生育促進が認められるのはアラニンだけで、あとは標準区と生育同等となっている。赤クローバーとタバコ(トマトと同じナス科)については文章の表現と表のデータが一致しているのに、トマトだけが違っている。左端のWhite(1937)のデータは無窒素が標準区なので、これも参考にならない。トマトはもっとも多く消費される野菜のひとつであり、生産者の関心も高い。今後のより詳細な検証を期待したい。

文献

二瓶直登、2010、植物のアミノ酸吸収・代謝に関する研究

http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010791393.pdf

佐藤洋一郎、イネの歴史、京都大学学術出版会、2008

イネの有機栽培、農山漁村文化協会、2005

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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