アオムシはなぜ化成肥料で育てたキャベツを好むのか?

前回、キャベツとアオムシの話がでたので‥。アオムシは有機栽培で育てたキャベツよりも、化成肥料で育てたキャベツを好むという実験がある。アオムシは化成キャベツをたくさん食べたのに、糞の量はほぼ同じだ。化成キャベツを食べたアオムシの成長効率は高く、有機キャベツを食べたアオムシの糞はきわめて多い。また、化成キャベツのほうが窒素の含有量が高いという。

ごくふつうに考えれば、アオムシは、セルロースなど食物繊維が多くて硬い有機キャベツよりも、食物繊維が少なくて軟らかい化成のキャベツを好むということだろう。化成肥料か有機質肥料かではなくて、食物繊維が多いか少ないかであり、言葉を変えれば窒素が多いか少ないかだ。

キャベツは、体内に窒素が豊富に存在し日照も十分であれば、たんぱく質をたくさん合成できるので、葉っぱをできるだけ大きく生長させる。そのほうが、光合成産物の量が多くなり養分を多く蓄積できるので生存に有利だ。一方、土壌中や体内に窒素が少ないと、樹体をそれ以上大きくすることができないので、光合成産物からセルロール、ヘミセルロース、リグニンなどを多く合成し、細胞壁を厚く硬くして昆虫や乾燥から防御する準備に入る。セルロース、ヘミセルロース、リグニンは極めて頑丈な物質で、自然界にはこれを効率よく分解できる生物は多くない。哺乳類にはこれを直接分解できる種はおらず、ウシやシカなどの反芻動物は、胃の中に共生するルーメン微生物にセルロースを分解してもらっている。シロアリは、効率よくセルロース、ヘミセルロースを分解、消化できる数少ない生物だ。また、リグニンを地球上で唯一分解できるのは白色腐朽菌だけだ。(参照:腐植の成り立ちと機能)

地中海周辺を起源とするキャベツ類は、じつは多年草の植物である。地中海性気候では冬は比較的温暖で雨が多く、夏は雨がほとんど降らず乾燥する。秋の降雨で萌芽したキャベツ類は、秋から春にかけて生育する。暖かくなるとチョウ類がやってきて卵を産みつけるので、セルロースなどで体を硬くして防御する。また、夏は雨がほとんど降らずに乾燥する。ギリシャのアテネの7月の降水量はわずか4~5mmだ。多年草のキャベツ類は、乾燥する夏を乗り切るために、茎の周囲をセルロース、へミセルロース、リグニンで固め、木のように硬くなる。そしてその硬い殻の中に炭水化物を貯蔵している。秋になって雨が降り出すと、貯蔵していた養分を使って新しい根と芽を出し始める。

ブロッコリー3469

茎に貯蔵養分を蓄えるブロッコリー

ヨトウ3463

そのブロッコリーの葉に産みつけられたヨトウムシとモンシロチョウの卵

実験では、アオムシが、食物繊維が多いか少ないかを、どのように見分けているのかはわからない。可能性は2つある。ひとつは、モンシロチョウはアブラナ科が持つシニグリン(配糖体)に誘引されるので、窒素が多いキャベツはシニグリンを多く放出しているのかもしれない。シニグリンは食害されて空気に触れると酵素の働きでアリルイソチオシアネート(辛味成分)を生じるので、本来は昆虫にとっては毒だ。さらに、食害されたキャベツは、誘導性の香気物質を放出して、チョウの天敵の寄生蜂を呼び寄せることが知られている(文献参照)。もうひとつは、食物繊維が少ないということは、窒素が多いということなので、葉の色で見分けているのかもしれない。モンシロチョウは短い波長(青色)の光を識別する能力が高く、長い波長(黄色や赤色)は識別できない(文献参照)ので、アオムシも葉の色が青いほうを選んでいる可能性はある。いずれにしても、窒素過多のキャベツで、キャベツの圃場の周囲を取り囲めば、モンシロチョウとその天敵がすむ、ホストクラップ(バンカープランツ)にできるかもしれない。

なお、「栄養価」というのは、エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、カルシウム、鉄、ビタミン、食塩で表現する。セルロースなどの食物繊維は人の消化酵素では分解できないし、腸内細菌でもほとんど分解されないので、エネルギーの計算には入れない。つまり、重量当たりの栄養価は、セルロースの少ない化成キャベツのほうが高い。

しかし、食品の栄養価は、人の健康にとって必要条件ではあるが、十分条件ではない。栄養価が高い食品を多食すれば、健康を損なう確率が高まることは誰でも知っている。かつて長寿の村として有名であった山梨県の棡原を調査した古守豊甫氏(古守病院)、光岡知足氏(元理化学研究所、東京大学名誉教授)らによると、棡原の長寿者は、食物繊維の摂取量が一般農村の2.4倍もあったという(文献参照)。また、山村の棡原では坂道が多く、昔から「背負うものがなければ石でも背負え」という戒めがあって、老人はみな足腰が強い。

ただ、個人的には光岡先生が名付けた「善玉菌」「悪玉菌」という言い方は好きでない。私の脳みそで考えても「善」と「悪」など判断できないのに、私の腸が、「こっちは善の細菌、あっちは悪の細菌」などと区別しているとは考えられない。食物繊維の健康効果としては、便秘予防、肥満予防、糖尿病予防、動脈硬化の予防、大腸ガンの予防、免疫強化、腸管運動の促進などさまざま言われているが、健康と長寿を大きく左右するのは、免疫システムであろう。

食事基準

原始では真核生物にとっての最大のライバルは、細菌とウイルスであり、真核生物は細菌とウイルスに打ち勝つために免疫機構を進化させてきた。人間が衰弱して死ぬときは、細菌とウイルスに侵されて死ぬ。また、ガン細胞は自分の遺伝子が変異したものであり、「非自己」である。体内では、1日当たり5000個も発生するガン細胞=非自己を免疫機構によって押さえ込んでいる。

また、適度な運動は健康長寿にいいとされているが、運動すると酸素摂取量が増えるので、筋肉細胞の中では活性酸素(スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素など)が増える。活性酸素は、遺伝子をはじめ、ほとんどの生体分子にダメージを与える。つまり、運動は体に悪いはずだ。一方、身体には、この活性酸素を除去する機構がそなわっており、酵素のスーパーオキシドディスムターゼは、スーパーオキシドを過酸化水素に変え、過酸化水素は酵素のカタラーゼやペルオキシダーゼなどによって解毒される。すなわち、適度な運動が健康長寿にいいというのは、これらの免疫機構を常に臨戦状態に保ち、鍛えているということだろう。

腸の免疫機構についても同様で、腸内に食物繊維が多ければ、量が多くなって消化・分別・吸収のための仕事量が増えるし、多種類で多数の腸内細菌が繁殖するので、免疫機構は常に臨戦態勢におかれて鍛え上げられる。日ごろから、運動したり食物繊維の多い食品を摂取することで、常に免疫機構の働きが高い状態に保たれていることが、健康長寿につながっているのではないだろうか。

文献

塩尻かおり、植物の香気成分が媒介する生物間相互作用ネットワークの解明、2006

http://www.nougaku.jp/award/2006/shiojiri.pdf

植物-害虫-天敵間の匂いによるネットワークを研究、nature、2009

http://www.natureasia.com/ja-jp/jobs/tokushu/detail/148

植食者特異的かつ植食者密度依存的な植物揮発性成分の誘導:正直なシグナル?それともオオカミ少年シグナル?

http://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2010/100818_1.htm

虫と光

http://hyogo-nourinsuisangc.jp/17-zakkan/zakkan-2203.html

食生活と長寿に関する研究

http://ir.iwate-u.ac.jp/dspace/bitstream/10140/1335/1/erar-v41n1p109-137.pdf

多田富雄、免疫の意味論、青土社、1993

制御性T細胞が大腸がんの進行に関与していた!―腸内細菌のコントロールによる大腸がん治療に期待

http://www.amed.go.jp/news/release_20160426.html

日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要、厚生労働省

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000041955.pdf

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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