「リンはいくらでもある、しかし循環しなければならない」その1

人体に存在する元素の量を、多い順から並べると、表のようになる。このうち、水素Hと酸素Oの多くは水として存在しており、人体の70%は水である。リンは人体中に6番目に多く存在する元素で、大人1人の体には700gくらいが存在している。

jinntai

リンは体の中では、DNAやRNAの構成要素、ATPの中心元素、リン脂質(細胞膜)、リン酸カルシウム(骨)などで存在し、生物の自己複製と代謝にとってきわめて重要な役割をはたしている。人間は、植物と動物を食べることで、リンを摂取している。植物のほとんどは作物である。動物には、家畜と野生動物がある。家畜は飼料で育てるので、その養分は作物に由来する。野生動物のほとんどは、魚介類である。すなわち、人間が摂取するリンの多くは、農地土壌に存在するリン、肥料として施用されるリン、海水中のリンに由来している。

地殻と海水中に存在する元素は、次の表のとおりである。「地殻」というのは、地球の表面の土のことであり、リンは土1tの中に平均で1.2kg存在している。一方、海水1tの中には、わずか0.062gしか存在していない。

地殻、海

植物はこの地殻中のリンを吸収利用し、海洋生物は、おもに海水中のリンを吸収利用している。次に、植物組織と土壌中の元素の濃度を示す。

キウイ

キウイフルーツからみると、窒素、カリ、カルシウムはたくさん必要だが簡単に手に入る。マグネシウムとイオウは十分にあるのであまりいらない。リンはけっこう要るのに、手に入れることがえらく難しい(=エネルギーコストが高い)。入手に必要なおおよそのエネルギーコストをみるために、組織濃度に比率(濃縮率)を掛けてみると(表の右端)、リンを入手するためのコストは3,600円、窒素221円、カリ144円、カルシウム31円、マグネシウム3円となり、リンが断トツにコストがかかる。さらに、植物の細胞は、培地中のリンを1,000~10,000倍の濃度勾配に逆らって吸収できることが知られている(物質は、濃度の高い方から低い方に流れる性質がある)。植物がリンを獲得するには、いかに多くのエネルギーが必要であるかがわかるであろう。

イクラ

上は、イクラ(サケの卵)の金属元素濃度と生物濃縮係数をみたものである。サケにとって、もっとも必要な金属元素はリンで、値段も3番目に高い。カリウム、マグネシウム、カルシウムも多く必要だが、ただ同然だ。ナトリウムは多すぎて、逆に捨てるためのコストがかかる。亜鉛と鉄は、量は少しでいいのだが、値段は高い。とくに、鉄はべらぼうに高価な材料だ。最近、海に鉄鋼スラグを置いて魚を増やそうとしているが、鉄鋼スラグを入れると生物が増える理由は、鉄とリンが豊富に含まれるからだ。キウイと同様に、濃度×濃縮係数/1,000を計算(表の右端)してみると、海の生物にとって、いかにリンの入手に多大なコストがかかるかがわかるであろう。キウイが土壌中からリンを吸収するには、カリウムの25倍のコストだったのに、サケが海水からリンを摂取するには、カリウムの16,000倍のコストがかかる。金属元素だけで見れば、海の生物はほとんどリンを獲得するために、海の中を動き回っているようなものだ。生物が海から陸地に進出したのは、リンの獲得が目的だったのであろう。

人間にとっては6番目の元素にすぎないリンが、地球の生物にとって、いかに重要で「高価」な元素であるのかがよくわかる。リンが地球上のバイオマスの限界量を決定すると考える学者もいる。理論的にはそうかもしれないが、地球儀を見ればわかるように、陸地で生物が生息していないところは、極地と砂漠だ。すなわち、生物の存在は温度と水に大きく左右される。リンは存在量が安定していて変動が小さいために、生物種に与えるインパクトはそれほど大きくない。一方、温度と水は変動が大きく、地球上で何度か起きた生物の大絶滅も、地殻変動(火山活動)や気象変動(隕石、温度)によると考えられている。(つづく)

文献

肥料を知る 土を知る、農山漁村文化協会、2010

原口・松浦、2004、生体金属支援機能科学と生物細胞全元素分析

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進化と養分吸収、イチョウ科植物は恐竜と共に滅んだ?

ある植物Aが、生長期に1日で5%ずつ生長するとする。アブラナ科植物は、カリシウム型リン酸や有機態窒素を吸収できるので、Aよりも生育効率が3%高いとする。Aのn日後の生長量はa0×(1.05)n-1で計算でき、アブラナ科のほうはa0×(1.0815)n-1なので、a0に適当な数字を入れて計算すると、アブラナ科は23日くらいでAの2倍の大きさに育つ。これほど生育スピードに差があれば、アブラナ科は簡単にライバルたちを圧倒して、その場所から駆逐してしまうであろう。被子植物が登場してから2億年くらいたっているそうなので、いまごろ、世界中の植物が生育可能な地域は、アブラナ科だらけになっていてもおかしくない。しかし、じっさいにはそうなっていない。なぜだろうか?

有機態窒素のような大きな分子を根から取り込むということは、すばやく窒素を取り込んだり、そのエネルギーを利用できることの有利さはあるが、一方で、土壌中の寄生生物や病原生物も侵入しやすくなる。菌類、ストラメノパイル、ケルコゾア、細菌などの土壌中の寄生・病原生物は、植物の根の表皮細胞の隙間や根毛、あるいは根毛のキズなどから侵入するものも多い。根に、アミノ酸、ペプチド、たんぱく質のような大きな分子を取り込める隙間があれば、そこから微生物も侵入しやすくなるはずだ。そこで、アブラナ科植物は、侵入してきた生物に対する、防御機構を用意しなければならない。アブラナ科植物が有する辛味成分のアリルイソチオシアネート(AIT)は、草食動物に対する忌避物質といわれることが多い。しかし、じっさいの試験では、糸状菌(カビ、キノコ)に対する抗菌作用がもっとも強いと報告されている。細菌への抗菌作用や、昆虫、動物に対しての毒性はそれほど強くない(文献参照)。

侵入生物に対する、防御機構のためのエネルギーコストが高くつけば、有機態窒素を吸収することの有利性はなくなってしまう。有機態窒素を吸収して防御機構を用意するか、無機態窒素を吸収してライバルに勝つ別の方法を用意するか、どちらが有利なのかは環境や偶然性で決まる。種の数が多い植物ほど、多様な環境に進出できたということなので、種数の多い植物をみてみると、キク科23000種、ラン科22000種、マメ科19000種、アカネ科13000種、イネ科10000種、シソ科7000種、トウダイグサ科5700種、ノボタン科5000種、フトモモ科4600種、キョウチクトウ科4500種などとなっている。

キク科とマメ科の多さを見れば、PA物質(ピロリジジンアルカロイド)と根粒菌共生は、被子植物の進化の過程で、きわめて有力な発明であったようだ。ラン科は、根に担子菌類と共生する特徴があり、アカネ科はアルカロイドを含む種が多い。これら以外で、栽培植物が多く含まれる科としては、サトイモ科4000種、セリ科3700種、アブラナ科3700種、バラ科2800種、ナス科2500種、バンレイシ科2200種、ヒユ科2000種、ミカン科1800種などがある。

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ユズ(ミカン科)のトゲ

生物進化から考えれば、バラ科(リンゴ、イチゴなど)やミカン科のようにトゲを有する植物は、大型の草食動物(爬虫類、哺乳類)が登場したあとに発展した種であることわかる。バラ科やミカン科は、身体をトゲで守っているので、草食動物がライバル植物を食べて空いた隙間(ニッチ)に侵入することができる。花粉は昆虫に運んでもらい、種子は鳥に拡散してもらう。植物は地上を歩き回ることはできないけれど、大型動物、昆虫、鳥類を利用してライバルを駆逐したり、軽々と遠方まで移動することができる。地球上の棲息可能な場所の隅々まで、生息域を拡大することも可能だ。まさにドーキンスの「延長された表現型」、あるいは「遺伝子の長い腕」だ(文献参照)。

大型の草食動物がいるということは、大型動物が食べられるほど豊富に植物が存在するということであり、土壌中の有機物も豊富に存在する。有機物が豊富ならば無機態窒素も十分に存在するので、無機態窒素を吸収するのが無難である。つまり、バラ科植物やミカン科の植物は、有機態窒素よりも無機態窒素をよく吸収する可能性が高い(調べてみなとわからない)。そうであるならば、進化の後ろのほうで登場した植物ほど、有機態窒素をあまり吸収しないのではないか…と思って調べてみると、植物の種分化のツリーの後ろのほうに登場するセリ科のニンジンは、きわめてよく有機態窒素を吸収する。この仮説にあわない。自然はきわめて複雑で多様であり、単純な見方は通用しない。

追記:ニンジンの原産地は、アフガニスタンの冷涼なヒンズークシ山麓と考えられている。ニンジンは、自然の状態では夏~秋に発芽して生長し、冬季には生育が停滞するがそのまま越冬する。冬季の低温に遭遇すると花芽分化して、翌春の長日温暖下で抽台、開花に至る。秋~春の低温期には土壌微生物の活動が弱まるため、有機物の無機化が停滞する。そこで、無機化する前の、有機態の窒素を吸収する機構が発達したのであろう。

生物進化と種子拡散者のことで思い浮かぶのはイチョウだ。裸子植物は、3億から1億年前に地球上に大繁殖したが、現在はソテツ門、イチョウ門、マツ門、グネツム門の4群しかなく、他は絶滅してしまった。イチョウ類は、2億年前には地球上に広く分布していたが、現在はイチョウ一種類しか生き残っていない。

栽培の起源についてはよくわかっていないが、文献上はっきりしているのは11世紀ごろの長江下流域という。また、イチョウの野生種は原産地の中国でも絶えたとされている。日本への伝来については諸説あるが、文献に現れるのは15世紀である。17~18世紀に、愛知県と岐阜県で大実系が選抜され、果実を目的に栽培されるようになった。イチョウは、被子植物とは比較にならないほど樹勢が強く、高さ40m幹径5mに達し、300年以上実をつける。温暖地を好むが、病害虫に対して強く、耐寒性もある。きわめて強健な植物で、樹齢1000年以上の樹もめずらしくない。

以前、果樹の本を作っているときに、イチョウの種子拡散者について調べたことがあるが、いくら調べても、それについて書いてある文献を見つけられなかった。イチョウの果実のギンナンは、樹の下に自然に落ちて、悪臭を放つ。臭いの主成分は酪酸とヘプタン酸で、鳥も動物もこの果実を食べようとしない。タヌキはギンナンを食べるという文献を見たことがあるが、もしタヌキが食べたとしても、種子を噛み砕いてしまう。これでは、種子拡散者にはならない。種子拡散者は、果肉だけを食べて、種子は排泄するような動物でないといけない。

そのような条件にあいそうな動物は、大型の爬虫類だけであり、すなわち草食恐竜だ。かつて大繁栄したイチョウ科植物は、恐竜が滅んでしまったために、有力な種子拡散者を失い、次第に衰退して絶滅してしまったのであろう。そして、唯一イチョウだけが、人間に栽培化されことで、絶滅をまぬがれた。

近年、イチョウ葉エキスには、脳の血流改善効果や痴呆症の改善効果があることが発見され、大きな関心をあつめている。すなわち、イチョウは、気温が下がる秋に恐竜に葉を食べさせて体温を高く保ち、運動能力を高めて、種子を遠くまで運ばせていたと思われる。イチョウ葉の効能の発見で、今まで以上に、イチョウは人間に重宝されていくであろう。恐竜の代わりに人間が種子拡散者になったことで、イチョウは絶滅寸前の状況から抜け出し、再び繁栄することができた。

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ウメ(バラ科)のトゲ

あと、トマトやピーマンは、有機質肥料の施用効果が硫安よりも低いとか、有機態窒素をあまり吸収しないと書くと、「トマトやピーマン栽培では、堆厩肥や有機質肥料の施用は不要である」と早合点する人がいるかもしれないが、まったくそういうことではない。有機態窒素よりも無機態窒素をよく吸収するということは、土壌中に無機態窒素が十分に存在するということである。無機態窒素が十分にあるということは、有機物(有機態窒素)がきわめて豊富に存在する土壌であることを意味する。文献には、「土壌中の窒素は、無機態で存在するのはわずか1%にすぎず、ほとんどが有機態で存在する(Nemeth et al.1988)」(植物のアミノ酸吸収・代謝に関する研究、3p)とある。有機態窒素をあまり吸収しない植物は、腐植などの有機物が豊富にある土壌条件に適応していると見るべきであろう。じっさいに、トマトの土耕栽培では、有機質に富む土壌がもっとも根群が旺盛に発達し、新根の発生も優れるとされている。トマト名人の若梅健司さんも、トマトの追肥時期が稲刈り作業と重なるため、肥効時期を調整してある「有機一発肥料」を試していて、「いい成績が上がっている」と書いている。

さらに、有機物の施用は、窒素の供給だけが目的ではない。拙文「腐植の成り立ちと機能」の繰り返しになるが、腐植の役割には以下のものがある。養分の貯蔵庫:腐植には、有機物として窒素、リンなどの養分が蓄えられている。有機物は土壌微生物によってゆっくりと無機化され、養分が植物に吸収、利用される。土壌団粒の形成:腐植物質には、金属イオンや粘土粒子を結合させる働きがあり、壊れにくいミクロ団粒を形成する。さらに、ミクロ団粒と粗大有機物が、菌類や放線菌の菌糸や微生物が生産する多糖類によって結びつけられて、マクロ団粒が形成される。陽イオン交換容量(CEC):腐植は粘土鉱物と同様に陽イオン交換を行ない、各種の金属イオンと錯体を形成してCECを高める(ただし、アルカリ土類金属やアルカリ金属、アンモニウムイオンなどの保持への寄与はあまり大きいとは言えないということはすでに書いた。参照:「窒素(硝酸イオン)が多いとなぜ作物はおいしくないのだろうか?」の解説、その1)。これらのほかにも、有機物の施用は、肥料としての効果、CO2施用の効果(施設)、地域の有機物資源の利用、リンなど希少資源循環、消費者へのアピール効果などがある。

※追記
イチョウの種子拡散者が恐竜という話は私が勉強不足で知らなかっただけで、すでに西田治文先生が指摘しておられました(『植物のたどってきた道』1998)

参考文献
アリルイソチオシアネートと2,3香辛料精油の抗菌性および変異原性
http://ci.nii.ac.jp/els/110000978632.pdf?id=ART0001155255&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1463791038&cp=
リチャード・ドーキンス、(1976)、『利己的な遺伝子』、紀伊國屋書店、増補新装版(2006)
イチョウ葉エキスの有効性および安全性
http://www0.nih.go.jp/eiken/chosa/IppannGingko.html
イチョウ葉エキスの薬理活性
http://ci.nii.ac.jp/els/110009585919.pdf?id=ART0010040159&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1463710910&cp=

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エゴマ、キュウリ、トマト、ピーマンが有機態窒素を吸収しない理由

「有機か無機か?」の最後。有機質肥料の施用効果が低い作物で、レタスやソバについて触れたが、残りのエゴマ、キュウリ、トマト、ピーマンについても書いておく。これらの植物に共通しているのは、キク科の植物と同じで毒を有することだ(参照:キク科植物の巧みな昆虫コントロール)。

二瓶

エゴマはシソ科の一年草で、中国、韓国、日本に広く自生する。古代から中国、韓国、日本、東南アジアの北部、ヒマラヤ山脈の周辺で栽培されてきた。原産地は中国中部と考えられている。アジアではゴマよりも古くから利用され、日本でも5000年前の縄文時代前期の遺跡から出土している。エゴマの葉には、ペリラケトンやエゴマケトンなどの3位置換フラン化合物が含まれ、独特の匂いがある。これらの化合物は、サツマイモが、昆虫に食害されたりカビが生えると生成する毒性成分のファイトアレキシンに構造がよく似ている。ウシやシカなどの反芻動物が、ペリラケトンやエゴマケトンを大量に摂取すると、肺水腫や肺気腫を起こすことが知られている(文献)。毒に匂いがあるのは、毒であることを動物たちに学習させるためである。

キュウリはウリ科の一年草で、ヒマラヤ山脈やからネパール付近に分布する野生キュウリから栽培化されたと考えられている。ウリ科植物は、ステロイドの一種であるククルビタシンを有しており、苦味の成分になっている。ユウガオ(カンピョウ、ヒョウタンも同種)、ヘチマ、ズッキーニでは、ククルビタシン成分が高いものが混入することがあり、これを食べると、食中毒(おう吐や下痢等)を発症する(文献)。ククルビタシンはウリ科とゴマノハグサ科に特有の物質で、もっと調べればいろいろと面白いことがあると思う。たとえば、畑でキュウリを栽培していると、ナス、ピーマンなどを食べまくるヤガ科のヨトウムシは、キュウリをまったく食べない。もともとウリ科植物は雌雄異花で、昆虫に花粉を運んでもらわないと実をつけられない。その花粉を運ぶのがヤガ類などである。ウリ科植物の一部(ユウガオなど)は、夜に活動するヤガ類を花に誘引しており、それがククルビタシンに由来する物質かもしれない。

ウリハムシ

クロウリハムシを捕食するアカサシガメ

さらに、ウリ科植物を好んで食べるウリハムシは、ククルビタシン(もしくは由来物質)に誘引されてやってくる。じつは、ウリハムシは体内に毒のククルビタシンをため込んで、鳥やカエルなどから身を守っている。なお、ククルビタシンは、窒素成分が多くなると、増えることが知られている(キャベツの話と似てきた)。ウリハムシには黄色のウリハムシと、黒い色のクロウリハムシがいる。これは生活環境によって主な天敵が違うためであろう。両生類や鳥類は視覚がすぐれているので、ウリハムシは黄色でめだつようにして、自分が有毒であることをわざと知らせて学習させている。クロウリハムシはできるだけ反射光を少なくして、ジョウカイボン、サシガメ、カマキリなど肉食昆虫から目立たないようにしている。黄色のウリハムシのほうが圧倒的に多いのは、アマガエルや鳥の数が激減してしまったためなのかもしれない。ほかにも、キュウリは、炭疽病と斑点細菌病に対して、PGPF(植物生育促進菌類)によるISR(誘導全身抵抗性)を発現することが確認されており、さらに、オオイタドリの抽出液は、キュウリなどウリ科植物のうどんこ病やコムギうどんこ病の抵抗性を誘導することが示されている(文献)。

うどんこ

キュウリのうどんこ病はオオイタドリ抽出液で抑えられる

トマトはナス科の多年草で、トマト類の多くは南米北西部高原地帯(ペルー、エクアドル)に分布している。ただし、栽培トマトの野生型は、中央アメリカに広く自生しており、トマトはメキシコで栽培化されたと考えられている。トマトの樹体には、アルカロイド配糖体のトマチンが含まれている。トマチンの含有量がもっとも多いのは花で、葉、茎、未熟果実の順になる。完熟前の果実や完熟果実にはごくわずかしか含まれていない。トマチンは、ハムシなどに対する忌避性と、いくつかの細菌と真菌類に対する抗菌性が確認されている。花に含有量がもっとも多いことから考えると、受粉のために蜂などの昆虫を誘引する役割もあるのかもしれない。なお、トマチンは、試薬や薬としても利用されている。

最近の研究では、植物は「集団的自衛システム」を持っていることも発見されている。トマトがハスモンヨトウに食害されると、十数種類の香り成分を放出する。その香り成分を別のトマトに曝露して、ハスモンヨトウに食べさせると、幼虫の成育が抑制される。これは、トマトが、無毒な香り化合物(ヘキセニルビシアノシド)を取り込んで、毒性のある化合物に変換しているためであるという。このシステムは他の多くの植物でも見られるらしい(文献)。

ヘキセ

「植物間の香りを介したシグナリングの仕組みの解明に成功」より

ピーマンはトウガラシと同種の植物であり、ナス科の一年草である。トウガラシといえば、その辛味成分は、アルカロイドのカプサイシンであることはよく知られている。カプサイシンは、昆虫に対する忌避効果や真菌類への抗菌性が報告されているが、もっとも強い忌避性や毒性を示すのは哺乳動物に対してである。近年の研究では、これは、果実が哺乳類に食害されるのを防ぎ、鳥類に食べられることで、種子を拡散するためと報告されている(文献)。鳥類は辛味を感じないらしい。
pi-mann

Figure 1 The effects of capsaicin on consumers and of consumers on chillies. a, In captive feeding-preference trials, thetwo most common mammals (five animals per species) readilyconsumed hackberry fruit (H); consumed non-pungent chillies(NP) only if they had not first sampled pungent chillies; and alwaysavoided pungent chillies (P) (cactus mouse, F2,12=8.05,P=0.008; packrat, F2,12=22.29, P=0.0005). Thrashers (tenbirds) ate virtually all pungent chillies that they were offered(F2,15=1.68, P=0.219) and showed no aversion to capsaicin. b, Non-pungent chilli seeds from fruit ingested by thrashers germinated at the same rate as controls, whereas seeds from fruitingested by cactus mice or packrats did not germinate, primarilybecause both mammal species rarely passed whole seeds(F2,25=19.0; thrashers vs control P=0.593, mammals vs controlP=0.0005). The number of animals used is shown in parenthe-ses. c, Chilli plants growing under shrubs with bird-dispersed fruit(striped bars) had fewer damaged fruits (F1,41=8.2, P=0.006)and more fruit removed (F1,41=32, P=0.0005) than chilliesgrowing in the shade of plants that do not produce bird-dispersedfruit (orange bars), after controlling for total fruit production. Therespective numbers of plants surveyed are shown in parentheses.(Seed dispersal. Directed deterrence by capsaicin in chilies. Nature 412)

文献
*1)エゴマ、農研機構
http://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_poisoning/plants/perilla.html
*2)自然毒のリスクプロファイル:高等植物:ユウガオ
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000079844.html
*3)オーストリア保健・食品安全局(AGES)、「なぜヒョウタンは食べられないのか?」を公表
https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu03460440464
*4)農家が教える病害虫防除ハンドブック、農山漁村文化協会、2009
*5)石井英夫、作物の誘導抵抗性を利用した妨害防除

クリックして2-5.pdfにアクセス


*6)植物病原体阻害剤組合せおよび使用方法
http://www.ekouhou.net/%E6%A4%8D%E7%89%A9%E7%97%85%E5%8E%9F%E4%BD%93%E9%98%BB%E5%AE%B3%E5%89%A4%E7%B5%84%E5%90%88%E3%81%9B%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E4%BD%BF%E7%94%A8%E6%96%B9%E6%B3%95/disp-A,2013-500981.html
*7)植物間の香りを介したシグナリングの仕組みの解明に成功

クリックして14042901.pdfにアクセス


*8)Joshua Tewksbury, Gary Nabhan. (2001). Seed dispersal. Directed deterrence by capsaicin in chilies. Nature 412(6845):403-4.

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「自然スズメノテッポウ野草緑肥米」はどうです?

「有機か無機か?」からのつづき。イネは、作物の中でもとくに有機態窒素をよく吸収する植物で、さらに、吸収したグルタミンから窒素だけでなく、わずかだがエネルギーも利用できるという(文献参照)。

これは、イネの植物としての性質からすればきわめて合理的だ。イネは、亜熱帯から熱帯にかけて分布する植物にもかかわらず、C3植物だ。亜熱帯・熱帯起源のイネ科作物といえば、サトウキビ、モロコシ、トウモロコシなどだが、これらはみなC4植物だ。光合成は、CO2を取り込んで固定し、O2を生じる反応だが、一方では光の照射によって、逆にO2を消費してCO2を産出する光呼吸がおきている。この光呼吸のために、エネルギーが浪費されている。光呼吸は、CO2の量が十分でないときに、光エネルギーを使いきれないので、光酸化から組織を守る反応と考えられている。C3植物は、夏の高温時に強い光をあびると、CO2を使い果たして、光合成のCO2固定よりも光呼吸が上回ってしまうことがある。このため、光合成能力には限界がある。一方、C4植物では、CO2を光合成細胞内に濃縮することで、光呼吸を完全に防ぐことができるので、高温で日照が強い場所(熱帯)では、C3植物よりも生長が速い。逆に、涼しい場所では光呼吸が負担にならないので、CO2固定のエネルギーが少ないC3植物のほうが有利になる。

イネ科イネ属の植物は20種ほどが知られているが、その多くは多年生で森の中の日陰の水際に生息しているという(文献参照)。水の中では、有機物の分解能力が高い真菌類(カビやキノコ)や好気性の細菌(放線菌や枯草菌など)が生息できないので、有機物の分解はゆっくりとしか進まない。さらに水中なので、有機態窒素が遊離しやすい。涼しい水辺で生息するC3植物のイネ属が、有機態窒素をよく吸収し、さらにそのエネルギーも利用できるというのは、きわめて理にかなっている。

有機態窒素施用がイネの生育に有利ならば、それを生かした栽培がいろいろ考えられる。群馬県や佐賀県のように裏作で小麦やビール麦を作ったり、大豆を輪作するのが農学的にはもっとも合理的だ。しかし、麦や大豆は機械、販売、制度など経営的なハードルがあるので、イネ単作のところがほとんどだ。

手っ取り早いのは、堆厩肥と有機質肥料を施用して、特別栽培米などで販売することだ。しかし、じっさいには、畜産地帯は北海道の東端と南九州に集中しており、水田に投入できるような大量の堆厩肥を確保するのは容易ではない。施設や撒布機械も必要になる。また、有機質肥料は、原料不足から価格が上昇し、コスト的に厳しくなっている。

では、レンゲ米とかクローバー米はどうだろうか。マメ科のレンゲやクローバーは、大気中の窒素を固定できるので、有機態窒素の供給にはぴったりだ。田んぼは紫色の花できれいだし、「レンゲ米」とか「四葉のクローバー米」とかで売ればイメージもいい。しかし、なにごとも思い通りにはいかないもので、レンゲやクローバーなどマメ科緑肥は、採種に手間がかかるため、種子の価格が高騰している。また、草が多い場合は、播種前に除草剤を撒布する必要もある。

そう考えると、福岡さんは本当の先駆者だったとつくづく思う。70年も前から、不耕起乾田直播とかコーティング種子(粘土団子)、クローバー草生、抑草効果の高いヘアリーベッチ草生、アヒル放飼(害虫を食べて窒素・リンを供給する)などを、たった一人で研究し実践していた。福岡さんに、「クローバー草生米麦連続直播で、大面積を大型機械で栽培した場合、自然農法と呼んでもいいですか?」と聞いてみたことがある。福岡さんは少し困ったような表情をしていたが、「理想の状態に近づくために努力しているという面を評価するという意味では、自然農法と呼んでもかまわないのではないか」と答えていた。方向さえ間違ってなければ、それほど柔軟な考えを持っていた(参照:農業技術者、農業指導者としての福岡正信)。

カラスノ

カラスノエンドウ(マメ科)。やせ地ならどこにでも生えている

マメ科植物以外では、ナタネ、コムギ、ライムギ、サクラワセ(イタリアンライグラス)などの緑肥も、水田の裏作で栽培できるし抑草効果もある。米を販売するときに個性化できるのもよい。ただし、種代と肥料代はかかる。

それなら、いっそのこと、秋に田んぼに尿素か硫安を撒いて、雑草を育てたらどうだ。それなら10a当たり窒素成分で3㎏撒いても、1haで6000~7000円だろう。レンゲの種より断然安いし、手間もかからない。雑草に肥料をやると水田雑草化する心配があるが、強害雑草のイヌビエ、タイヌビエ、コウキヤガラ、コナギ、ミズガヤツリなどは、秋には種子や塊茎で休眠しているので、影響はないはずだ。

実践家の事例では、稲刈りあとに生えてくる雑草は、スズメノテッポウ(イネ科)やセトガヤ(スズメノテッポウの近縁種)が多く、そのあとはカラスノエンドウ(マメ科)が増えてくるようだ。じっさいに、スズメノテッポウを緑肥に試験している農家もいる(文献参照)。スズメノテッポウは、田んぼの水が抜かれると発芽し、翌年5月に種子ができるので、代かきを遅くすると増える(麦作では強害雑草)。別に特別栽培米にしなくても、「自然スズメノテッポウ野草緑肥米」とでも名前をつけて売り出せばいいのではないだろうか。(敬語表現略)

テッポウ

スズメノテッポウ(イネ科)

追記

「植物のアミノ酸吸収・代謝に関する研究」の中で不可解なのは、トマトについての記述だ。トマトは、有機質肥料の施肥効果試験ではきわめて成績が悪い(図221)。しかし、3章のアミノ酸の影響の解析では、「Ghoshら(1950)は、クローバーにはアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、トマトにはアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、プロリンが無機態窒素源よりもよく利用され、タバコではどのアミノ酸も利用されなかったと報告している」と書かれている。ところが、表332を見ると、Ghosh(1950)のトマトの項で生育促進が認められるのはアラニンだけで、あとは標準区と生育同等となっている。赤クローバーとタバコ(トマトと同じナス科)については文章の表現と表のデータが一致しているのに、トマトだけが違っている。左端のWhite(1937)のデータは無窒素が標準区なので、これも参考にならない。トマトはもっとも多く消費される野菜のひとつであり、生産者の関心も高い。今後のより詳細な検証を期待したい。

文献

二瓶直登、2010、植物のアミノ酸吸収・代謝に関する研究

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佐藤洋一郎、イネの歴史、京都大学学術出版会、2008

イネの有機栽培、農山漁村文化協会、2005