キク科植物の巧みな昆虫コントロール

前回からのつづきだが、その2、その3とやっていくとキリがないので、タイトルはその都度、適当につけることにした。

二瓶

図の中で、アブラナ科と同じ西アジア原産のレタスは、なぜ、こんなにも有機質肥料の効果が劣るのであろうか?有機態窒素を利用できないということは、もちろん無機態窒素しか吸収できないということである。土壌中の生物(ミミズ、菌類、細菌など)は、有機物中のタンパク質を分解・利用して、無機態窒素を放出する。草食動物たちも、草を食べて、窒素を尿素として排出する。肉食動物は、草食動物を食べて尿素を排出する。

レタスが、無機態窒素しか吸収しないということは、有機物の分解が十分にすすんで窒素が無機化しているような土壌でしか生息できないということを意味する。植物は、場所(土や日照)をめぐってお互いに激しく競争するので、有機物の分解が十分にすすんでいるような場所は、すでに他の植物に占有されてしまっているはずだ。無機態窒素が存在するということは、有機物(おもに植物)が豊富に存在するということだ。

どうして、そのような厳しい競争が行われている場所で、レタスは生き延びることができるのか?レタスはキク科の植物だ。キク科植物は、もっとも繁栄した植物のグループのひとつで、世界には950属2万種も存在するとされる。そのキク科植物の大きな特徴の一つは、毒性のあるPA物質(ピロリジジンアルカロイド)を有していることだ。キク科植物は、PA物質を有することで、昆虫や動物から身を守ることできる。そしてこの能力のおかげで、地球上のあらゆる場所に進出することに成功した。これが、レタスが無機態窒素しか吸収しないのに、厳しい競争の場所でも生存できる理由と思われる。

現在のレタスは、栽培化によってPA物質含有量が少なくなっているが、それでも白菜やキャベツに比べれば、各段に害虫に強いことは誰でも知っている。よく、コンパニオンプランツの本などで、レタスやシュンギク(キク科)とキャベツを混植すると、キャベツの害虫を寄せ付けない効果があるなどと書かれている。じっさいの農家の経験などからいわれていることなので、効果はあるのであろう。しかし、その理由はそんなに単純なことなのだろうか?キャベツ類(キャベツ、ブロッコリー、ケールなど)もレタスも地中海周辺が原産地とされている。キャベツ類の原種の野生カンランは、ケールのような植物だったと考えられている。

地中海周辺のどこかで、ケールの種と野生レタスの種がすぐ近くに落ちたとする。ケールもレタスも発芽の適温は15~20℃と同じなので、同じ時期に発芽する。ケールのほうはカルシウム型リン酸と有機態窒素を吸収できるので、より旺盛に生長する。ケールの葉っぱがどんどんかぶさってきて日光をさえぎり、レタスはますます不利になる。もし私がレタスなら、モンシロチョウを追い払ったりはせず、逆に呼び寄せるだろう。アオムシにケールの葉っぱを食べてもらえば、日当たりがよくなる。

しかし、どんどんチョウを呼び寄せて、ケールが完全に枯れてしまうのも困る。ケールがアオムシに完全に食べられて、周辺から駆逐されてしまえば、今度はカルシウム型リン酸を溶解するものがいないので、自分も吸収できなくなる。どうすればいいか?そこで、チョウの天敵の寄生蜂も一緒に呼び寄せる。チョウが増えすぎれば、エサが多いので天敵も増える。天敵が増えすぎればエサがなくなって天敵は減るので、チョウがまたふえる。この増えたり減ったりを繰り返して、ある程度のところでバランスがとれるはずだ。ケールはアオムシに食べられるが、枯れるほど食べられることはない。こうすれば、自分(レタス)も無事に生き延びることができる。

以上はあくまでも仮説であるが、似たような例はいろいろと観察されている。チョウのアサギマダラのオスは、アメリカセンダングサ(キク科)などの花に集まるが、それは、花の蜜に含まれる毒のPA物質(ピロリジジンアルカロイド)を吸うためという。アサギマダラは、PA物質をフェロモンとして利用しており、キク科植物のPA物質がないとメスを引き寄せることができない。そもそも、アサギマダラがわざわざ毒を吸うのは、鳥などの天敵から身を守るためであろう。

さらに、キク科植物の巧みな昆虫コントロールの仕組みをうまく利用したのが、ナスの露地栽培における、マリーゴールド(キク科)の混植だ。露地ナスの畑に、フレンチマリーゴールドを一緒に植えると、マリーゴールドの花には、6月ごろまではヒラズハナアザミウマが増える。7月以降はコスモスアザミウマが増えるが、これらはナスを食害しない。これらのアザミウマをエサにして天敵のヒメハナカメムシ類が増え、増えたヒメハナカメムシは、ナスを食害するミナミキイロアザミウマを食べる。

アザミウマ.jpg

この研究では、マリーゴールドのPA物質の働きは検討されていないが、今後、PA物質の自然界における働きが解明されてくれば、IPM防除へのさらなる利用が期待できるであろう。

 

文献

二瓶直登、2010、植物のアミノ酸吸収・代謝に関する研究

http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010791393.pdf

栗田昌裕、謎の蝶アサギマダラはなぜ未来が読めるのか?、PHP研究所、2013

奈良県における土着天敵を活用した露地ナスの減農薬栽培技術マニュアル

http://www.pref.nara.jp/secure/9176/eggplantmanual.pdf

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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