「窒素(硝酸イオン)が多いとなぜ作物はおいしくないのだろうか?」の解説、その4

シカゴからノースダコタへ、車で向かっていた。この辺りが世界一の穀物生産地であることは、もちろん知っていたが、ハイウェイを時速120キロで10時間も走っているのに、いつまでたっても畑が続いている。とりわけ、ミネソタ州からサウスダコタ州に至るあたりは地面に起伏がまったく無く、鏡のような農地が地平線のかなたまで広がっている。

向かっているのはノースダコタのネルソン農場だが、ここは、モンサント社にGMダイズの特許侵害で訴えられ、それを退けた農家としても知られている。まず、町の中心部に行ってみた。小さな貨物駅があり、駅のそばにはカントリーエレベーターがぽつんと建っているが、使われているようすはない。バーらしき店が1軒あるが閉まっている。付近には10戸ほど家が建っているが、何軒かは空き家のようだ。ここがとくにさびれているというわけでなく、アメリカの農村はどこでも農家の数が減り人口が少なくなっている。大変なのは子供の通学で、学校まで片道2時間も珍しくない。やがて小型飛行機がやってきて、地面すれすれに上昇と下降を繰り返し、1枚の畑の上を行ったり来たりしている。農薬の散布作業だ。

農場に到着すると、当主のロジャーさんは、待ちかねていたように歓迎してくれ、作業小屋のわきのオフィスに招き入れてくれた。部屋には、鹿の頭の剥製がたくさん飾ってあり、鹿狩りは昔から開拓農民たちの楽しみであったようだ。60年以上も前の一族総出の鹿狩りの写真が飾ってあり、これが祖父、父親、叔父たちと説明してくれる。ネルソン家は150年ほど前に、ロジャーさんのおじいさんがノルウェーから移民してきた。ロジャーさんは1961年に21歳で就農し、以来ずっとここで農業を続けてきた。おじいさんが入植したころは、ここらあたりは樹が1本も生えていない草原で、風や洪水に苦労したらしい。現在は、家の周囲には樹が植えられ、農家は林の中に隠れるようにして住んでいる。

畑は1枚の大きさが64haで、道路も町の区画もすべて東西南北に真四角である。巨大な碁盤の上に立っているようだ。アメリカの測量法では、6マイル四方(1マイルは約1.6キロ)が1タウンシップで、これを36のセクションに分割する。1セクションは、1マイル四方(640エーカー)で、その4分の1の160エーカー(64ha)がクォーター・セクションと呼ばれる(畑1枚分)。1862年に制定されたホームステッド法により、5年間定住して耕作すれば160エーカー(64ha)の土地が無償で所有できるようになり、160万戸の開拓農民が入植した。じっさいには条件の良い土地は、土地投機業者に買い占められていたので、それを購入するという形で開拓が進められることとが多かったらしい。

ネルソン農場は、ロジャーさんと2人の息子のグレッグ、ロドニーの3家族が共同で経営している。耕作面積は3600haだが、うち2800haは借地だ(2003年当時)。栽培しているのは、春小麦、ダイズ、ビート(てんさい)。これだけの面積をこなしているのであるから、たくさんの農業労働者を雇用しているのであろうと思ったが、中心の働き手は、ロジャー、グレッグ、ロドニーの3人で、周年の雇用は2人だけという。忙しい時期は臨時に5人、もっとも忙しい収穫期に20人ほど雇用する。このあたりではネルソン農場より大きく経営している農場は1つしかなく、地域では成功した農場だ。ロジャーさんは、「3家族分だからたいしたことない」と言っていたが。そのもう1軒の農場も親戚が数家族で経営しているそうで、規模が大きいとはいえ企業化しているわけでなく、経営は依然として家族農場のままである。話をしていても、日本の農家の親父さんと話しているのとまったく同じで、みな気さくでおだやかだ。

ネルソン4

豆腐用の日本のダイズ品種(2003年)

ネルソン3

耕耘作業、運転しているのはグレッグ(2003年)

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薬剤のタンク、左はしがロジャーさん(2003年)

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ロドニー(2003年)

ネルソン5

播種作業(2003年)

ネルソン農場で作付けているダイズは2種類だ。ひとつは古い品種で、やや小粒。もうひとつは大粒ダイズで、日本の商社を通じて購入した豆腐用の日本の品種だ。これらを自家採種している。生産しているダイズは全て非GMで、日本、台湾に出荷されている。この日はちょうどダイズの種播きの真最中であった。ロジャーさんの車で畑に向かう。大型のハローで耕耘したあと、作業車で除草剤と殺菌剤を散布する。そのあと、トラクターの後ろに付けた播種機でダイズの種子を播いていた。農薬散布車にはロドニーが乗り、種播き作業はグレッグが1人で行っていた。アメリカの大規模農場というと、現場の作業は農業労働者が従事しているのかと思っていたが、作業の中心はやはり、ロジャー、グレッグ、ロドニーの3人だ。(一部敬称略、つづく)

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズ(農文協)など

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