「窒素(硝酸イオン)が多いとなぜ作物はおいしくないのだろうか?」の解説、その3

どうしてノースダコタあたりまで行って、畑作農家に肥料についてしつこく質問したのかを書く。だいぶ前に、ダイズについて調べていた。また、同じ時期に、リンについても調べていたのだが、それについては別の機会に書く。

ダイズは、野生のツルマメから栽培化されたと考えられている。野性のツルマメは、中国東北部、日本列島、中国南部など、東アジアに広く分布している。ニコライ・ヴァヴィロフ(1887-1943)は、「栽培植物の発祥中心地」(1926)および、「ダーウィン以後における栽培植物の発祥に関する学説」(1940)において、ダイズの起源を東アジア地域(中国中央部および東部の温暖帯と亜熱帯の地域、台湾の大部分、朝鮮半島と日本)としている。栽培ダイズの起源については、まだはっきりとわかっておらず、ダイズの起源地は一つなのか、あるいは複数なのかで研究者の意見が分かれている。たとえば、日本の在来ダイズの品種には、日本に自生する野性ツルマメの特徴が強く残っていたり、縄文時代中期の土器からダイズの圧痕が発見されたりしており、ダイズは日本でも独自に栽培化されたのではないかと考える人もいる。いわゆる「縄文農耕」の評価について激しい論争が続いている。

地域によるダイズの遺伝的な違いについては、伝来した栽培ダイズがその地域の野生ツルマメと交雑したものか、あるいはその地域で栽培化されたものがあとで伝来品種と交雑したのかの判断が難しい。圧痕についても、野生ツルマメなのか栽培ダイズなのかを見分けるのは困難だ。だから論争になる。しかし、一般にマメ科作物では、栽培種か野生種かを判断するのは、サヤが自然にはじけるかどうかの違いなのであるから、サヤがはじける遺伝子を特定し、栽培品種と野生ツルマメの標本をできるだけたくさん集めて、その遺伝的距離を調べれば、原産地を特定できるはずだ。なので、いずれはっきりするであろう。「創造の中心はただ一つ」とするダーウィンの進化論や、ムギやイネの起源と伝播の例から考えれば、栽培ダイズの起源地は中国大陸のどこかの一か所であり、それが周辺に伝来する過程で、それぞれの地域の野生ツルマメと交雑していったと考えるのが妥当だと思う。

ダイズが文献に現れはじめるのは、古代中国の『詩経』からで、これは西周時代(BC1046年頃~BC256)の民謡や祖先の霊を祭る歌などを編纂したものである。また、西周時代の金文(青銅器に刻まれた文字)には、ダイズを意味する「菽(しゅく)」の象形文字が多く残されている(図)。清代の学者である王筠(おういん)はその著書『説文釈例』の中で、菽の象形文字について、次のように解説している。「〈尗〉の文字の横線〈一〉は地を、上下に貫いた縦線〈│〉の上部は茎を、下部は根を表わしている。根の左右は円い点にすべきで、長く曳いて書くべきではない。菽には直根が生えており、左右の細い髭根は描くに足らない。ただし細根の先に豆状のものが累々とついており、この豆状のものは凶年の時は虚浮となり、豊年の時は充実している」。この解釈が正しければ、中国ではすでに西周時代にダイズの根粒について注目していたことになる。また、清代には、根粒の多少と豊凶の関係を認識していた。

菽

菽(大豆)の金文

ダイズは、根に着生する根粒菌によって窒素が供給されるので、一般的には窒素肥料を多く必要としないとされている。たとえば、標準的なダイズの施肥基準は、10a当り窒素1~3㎏、リン酸8~10㎏、カリ8~10㎏などとされている。東アジアはダイズの原産地にもかかわらず、日本のダイズの平均収量は10a当たり200㎏に満たない。もっとも、新潟大学の大山卓爾氏らは、石灰窒素の深層施肥によって、10a当たり600㎏もの子実収量を実現している。

アメリカのダイズと日本のダイズの生産コストを比較すると(表)、日本の生産費はアメリカの15.8倍なのに、反収はアメリカの6割しかない。もっとも差が大きいのは一戸当たりの作付面積でアメリカが約100倍、次が労働費で日本が約63倍である。普通に考えれば、次に来るのは機械代だ。なぜなら、大型機械で大面積を耕作するので、機械の稼働率に大きな差がでるはずだ。ところが、機械代は7.7倍にすぎず、肥料代が20.7倍も違う。農薬代は17.4倍、種代は5.5倍だ。農薬代は、雨が少ないので病気が少ないとか、GMOなので除草の手間が少ないとかで差が出るのはわかる。しかし、ダイズが吸収する養分は日本もアメリカも同じであり、肥料代は収穫量に比例するはずだ。反収はアメリカのほうが多いのであるから、ダイズが吸収する肥料もアメリカのほうが多いはずで、差がもっとも小さくなるのは肥料代のはずだ。肥料は工業製品なので、単価がそれほど違うとは考えられない。農水省が作っている統計資料などをどんなに探しても、肥料代が20倍という理由がどうしてもわからなかった。それで、直接、アメリカの農家に聞いてみるほかないと思った。(つづく)

コスト

国産ダイズと米国産ダイズのコスト比較(「国産大豆の生産コスト」より引用)

文献

ニコライ・ヴァヴィロフ、栽培植物発祥地の研究、八坂書房、1980

郭文韜他、中国農業の伝統と現代、農山漁村文化協会、1989

大山卓爾・ティワリカウサル・高橋能彦、深層施肥と根粒菌接種、農家直伝豆をトコトン楽しむ、農山漁村文化協会、2009

http://www.cacn.jp/technology/dayori_pdf/141_daizu_ohyama.pdf

国産大豆の生産コスト

http://www.jsapa.or.jp/daizu/etc/DaizuCost.pdf

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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