「窒素(硝酸イオン)が多いとなぜ作物はおいしくないのだろうか?」の解説、その2

アメリカのふつうの野菜がおいしくないのは、速効性の窒素肥料のせいではないかと書いた。しかし、じっさいにサリナスあたりの野菜農家をまわって、「どんな成分の肥料を使ってますか?」とか「おたくのセロリの硝酸イオン濃度は何ppmですか?」などと聞いたわけではない。あくまでも予想で書いている。そもそもそのよう仕事は、公費でアメリカに出張したり留学したりしているお役人の仕事であって、自分が身銭を切ってやる仕事ではない(くやしまぎれのへらず口)。

どうして、そのような予想をしたかといえば、ひとつは、アメリカの農家は極端に生産コストにシビア(死語?)だとされているからだ。だったら、もっとも使用するのは、価格が安い速効性の肥料(窒素)であろう。また、レタスと書いているのは玉レタス(クリスプヘッド)ではなくて、サラダバックによく入っているグリーンオークリーフ(日本だとベビーリーフなどと呼ばれる)など、収穫までの期間が短いレタスを指している。ホウレンソウやオークリーフは、収穫までの期間が極端に短いので、施用した肥料のかなりの部分が生育の初期に吸収される。その植物体内の硝酸イオン濃度が高い状態で収穫されるため、エグみが強くなるのではないかと考えた。逆にセロリは、収穫までに数ヶ月もかかるので、速効性肥料では途中で窒素が切れてしまい、色も味も薄くなるのではないかと思った。それまでは、腐植率が高いアメリカの土壌は保肥力も高いと思っていたので、どうして野菜の食味が悪くなったり、窒素が流亡したりするのか、ずっと疑問だった。しかし、腐植には、それほど窒素を保持する力がないのならば、そうなるのは当然だろう。

もうひとつは、アメリカの有機農家とじっさいに話をしたときに、以下のような話をしばしば聞いたからである。

アースバウンドファームは世界最大の有機農場で、2014年の売上額は、5.8億ドル(650億円)、2015年の時点で管理する有機栽培の面積は、5万エーカー(2万ha)という規模である。2003年に、当時アースバウンドファームの農場長であったマーク・マリノさんに取材を申し込んで、話を聞いた。マリノさんは、農場の管理と商品開発をすべてまかされており、1997年にこの会社にスカウトされたそうだが、その前は農家として20年間、有機農業を実践していたという。40代なかばに見えるのだが、野菜、果樹、品種、土壌、肥料、昆虫などについてめちゃくちゃ詳しく、私の質問によどみなく答える。たとえば、果樹の草生栽培の話になったとき、たまたま持っていたナギナタガヤの写真を見せて、「日本の果樹農家では、こんなのがはやってますよ~」というと、「ああ、フェスキュー(fescueウシノケグサ)ね。これは前に試験したことあるけど、あんまり成績よくなかったんだよね~」と当然のように答える。日本名ナギナタガヤは、欧米ではフェスキュー(fescue)と呼ばれ、牧場の飼料として利用されているが、それを果樹園の緑肥に試験している人は、マリノさんだけだった。それどころか、他の10人くらいのカリフォルニアの果樹農家に、フェスキュー(fescue)のことを聞いてみたが、誰も名前さえも知らなかった。

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農場長(当時)のマーク・マリノさん(2003年)

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アースバウンドファームの農場。草が全然なくて虫に食われてもいない(2003年)

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天敵を温存するためのホストクラップ(宿主作物)(2003年)

そのマリノさんが、何度も強調していたのは、有機栽培では、「養分が土の中の生物(細菌、菌類、せん虫、原生動物、ミミズなど)を介して、ゆっくり作物に運ばれるので、おいしくなる」ということだ。アメリカ人は実証を重視するので、日本のオーガニックのように、「ミネラルが多いからおいしい」のような、科学的根拠が希薄なことは言わない(文献参照)。とにかく、「ゆっくり効くからいい」と言う。

同じことは、フレズノで有機レーズンを作っているマイク・マッカチオンさんも言っていた。マッカチオンさんの有機レーズンは、アメリカのみならず世界中に出荷されていて、日本の自然食品店でもふつうに売っている。マッカチオンさんは、若いころはNASAの関連企業に勤めており、惑星探査機ボイジャーのプロジェクトに参加して、衛星と地上との通信業務を担当していたというバリバリのエンジニアだ。1972年にお父さんが亡くなったため、1979に会社を退職して農場を引き継いだ。とても勉強熱心で、オフィス(といっても農作業小屋の一角)には、栽培技術の専門書がずらりと並んでいる。どんな勉強をしているのか本を見せてもらったが、たとえば天敵の本には大きなカラー写真がたくさんのっていて、解説もついている。「めちゃくちゃ詳しいですね!こんな本はどこで手に入れるんですか?」というと、どっかの大学の農学部が開くセミナーに定期的に参加していて、そこで資料も購入できるという。「これはいくらするんですか?高そうですね~」というと、目玉を丸くして、「すげえ高いよ~(1冊2万円くらい)」という。そのマッカチオンさんも、「有機栽培のどこがいいんですか?」と聞くと、有機栽培のブドウ園では、「土壌中の養分がいつも適切な状態に保たれ、養分の吸収と同化がスムーズなために、病害虫の侵入に対して、ブドウの自然免疫力が高まる」と言う(やはり「ミネラルが多い」などとは言わない)。

マリノさんとマッカチオンさんの話を聞いて、よっぽどアメリカの農家は、肥料(窒素)が速効きすることに悩んでいるんだなと思った。(つづく)

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マイク・マッカチオンさん。ブドウの品種はトンプソン・シードレス(2003年)

 

文献

有機農産物の品質

https://shop.takii.co.jp/tsk/bn/pdf/20090869.pdf

なお、コメの食味については、Mg/K・N値は食味評価と正の有意な相関を示すことが知られている。

栃木県における米の食味評価 ・ 選抜

http://www.agrinet.pref.tochigi.lg.jp/nousi/kenpou/kp_043/kp_043_02.pdf

有機農業と未来: アメリカの有機農業から何が見えるか
本田進一郎 (2016-02-13)
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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズ(農文協)など

“「窒素(硝酸イオン)が多いとなぜ作物はおいしくないのだろうか?」の解説、その2” への 2 件のフィードバック

  1. 初めまして。
    いつも興味深い内容のお話し、楽しみにさせて頂いています。
    私の稚拙なブログにリンクを貼らせて頂きました。
    ご迷惑でしたら取り下げますのでお知らせください。

    いいね: 1人

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