キク科植物の巧みな昆虫コントロール

前回からのつづきだが、その2、その3とやっていくとキリがないので、タイトルはその都度、適当につけることにした。

二瓶

図の中で、アブラナ科と同じ西アジア原産のレタスは、なぜ、こんなにも有機質肥料の効果が劣るのであろうか?有機態窒素を利用できないということは、もちろん無機態窒素しか吸収できないということである。土壌中の生物(ミミズ、菌類、細菌など)は、有機物中のタンパク質を分解・利用して、無機態窒素を放出する。草食動物たちも、草を食べて、窒素を尿素として排出する。肉食動物は、草食動物を食べて尿素を排出する。

レタスが、無機態窒素しか吸収しないということは、有機物の分解が十分にすすんで窒素が無機化しているような土壌でしか生息できないということを意味する。植物は、場所(土や日照)をめぐってお互いに激しく競争するので、有機物の分解が十分にすすんでいるような場所は、すでに他の植物に占有されてしまっているはずだ。無機態窒素が存在するということは、有機物(おもに植物)が豊富に存在するということだ。

どうして、そのような厳しい競争が行われている場所で、レタスは生き延びることができるのか?レタスはキク科の植物だ。キク科植物は、もっとも繁栄した植物のグループのひとつで、世界には950属2万種も存在するとされる。そのキク科植物の大きな特徴の一つは、毒性のあるPA物質(ピロリジジンアルカロイド)を有していることだ。キク科植物は、PA物質を有することで、昆虫や動物から身を守ることできる。そしてこの能力のおかげで、地球上のあらゆる場所に進出することに成功した。これが、レタスが無機態窒素しか吸収しないのに、厳しい競争の場所でも生存できる理由と思われる。

現在のレタスは、栽培化によってPA物質含有量が少なくなっているが、それでも白菜やキャベツに比べれば、各段に害虫に強いことは誰でも知っている。よく、コンパニオンプランツの本などで、レタスやシュンギク(キク科)とキャベツを混植すると、キャベツの害虫を寄せ付けない効果があるなどと書かれている。じっさいの農家の経験などからいわれていることなので、効果はあるのであろう。しかし、その理由はそんなに単純なことなのだろうか?キャベツ類(キャベツ、ブロッコリー、ケールなど)もレタスも地中海周辺が原産地とされている。キャベツ類の原種の野生カンランは、ケールのような植物だったと考えられている。

地中海周辺のどこかで、ケールの種と野生レタスの種がすぐ近くに落ちたとする。ケールもレタスも発芽の適温は15~20℃と同じなので、同じ時期に発芽する。ケールのほうはカルシウム型リン酸と有機態窒素を吸収できるので、より旺盛に生長する。ケールの葉っぱがどんどんかぶさってきて日光をさえぎり、レタスはますます不利になる。もし私がレタスなら、モンシロチョウを追い払ったりはせず、逆に呼び寄せるだろう。アオムシにケールの葉っぱを食べてもらえば、日当たりがよくなる。

しかし、どんどんチョウを呼び寄せて、ケールが完全に枯れてしまうのも困る。ケールがアオムシに完全に食べられて、周辺から駆逐されてしまえば、今度はカルシウム型リン酸を溶解するものがいないので、自分も吸収できなくなる。どうすればいいか?そこで、チョウの天敵の寄生蜂も一緒に呼び寄せる。チョウが増えすぎれば、エサが多いので天敵も増える。天敵が増えすぎればエサがなくなって天敵は減るので、チョウがまたふえる。この増えたり減ったりを繰り返して、ある程度のところでバランスがとれるはずだ。ケールはアオムシに食べられるが、枯れるほど食べられることはない。こうすれば、自分(レタス)も無事に生き延びることができる。

以上はあくまでも仮説であるが、似たような例はいろいろと観察されている。チョウのアサギマダラのオスは、アメリカセンダングサ(キク科)などの花に集まるが、それは、花の蜜に含まれる毒のPA物質(ピロリジジンアルカロイド)を吸うためという。アサギマダラは、PA物質をフェロモンとして利用しており、キク科植物のPA物質がないとメスを引き寄せることができない。そもそも、アサギマダラがわざわざ毒を吸うのは、鳥などの天敵から身を守るためであろう。

さらに、キク科植物の巧みな昆虫コントロールの仕組みをうまく利用したのが、ナスの露地栽培における、マリーゴールド(キク科)の混植だ。露地ナスの畑に、フレンチマリーゴールドを一緒に植えると、マリーゴールドの花には、6月ごろまではヒラズハナアザミウマが増える。7月以降はコスモスアザミウマが増えるが、これらはナスを食害しない。これらのアザミウマをエサにして天敵のヒメハナカメムシ類が増え、増えたヒメハナカメムシは、ナスを食害するミナミキイロアザミウマを食べる。

アザミウマ.jpg

この研究では、マリーゴールドのPA物質の働きは検討されていないが、今後、PA物質の自然界における働きが解明されてくれば、IPM防除へのさらなる利用が期待できるであろう。

 

文献

二瓶直登、2010、植物のアミノ酸吸収・代謝に関する研究

http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010791393.pdf

栗田昌裕、謎の蝶アサギマダラはなぜ未来が読めるのか?、PHP研究所、2013

奈良県における土着天敵を活用した露地ナスの減農薬栽培技術マニュアル

http://www.pref.nara.jp/secure/9176/eggplantmanual.pdf

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有機か無機か?その1

有機か無機かとか、植物はアミノ酸を吸収するとかの話は、テーア(近代農学の父、1752-1828)やリービッヒ(農芸化学の父、1803-1873)、ハワード(有機農業の父1873-1947)の時代から、大学者たちが大論争してきたことであって、この問題について書くのはとても気が重い。そもそも、自分は有機、無機、アミノ酸などということには、ほとんど関心がない。窒素は窒素であり、炭素は炭素であって、「有機物」とか「無機物」とかの区別を、いったい誰が決めたのであろうか?たとえば、ヴェーラー(有機化学の父、1800-1882)が合成した尿素は有機物なのか無機物なのかを、科学的・合理的に判定できる人がいるのであろうか?植物や微生物が「これは有機物、これは無機物」などと区別して摂取しているとでもいうのであろうか?

さらに、「有機農業」とか「慣行農業」とかになると、もはや科学的な根拠で区別しているわけではなく、文化的、社会的、商業的な意味のほうが大きい(文化的、社会的、商業的だから意味がないと言っているわけではない。有機物の利用は資源循環の意味が大きい)。作物は、「これは法律で認められている肥料だから健康に育つ」などと選ぶはずはなく、自分の生存にもっとも有利な化合物を摂取しているだけだ。

最初から「有機じゃないとダメ」とか「化成のほうがいい」などという生産者はほとんどいないことは、農家自身が一番わかっているはずだ。私が会ってきた何百人という篤農家と呼ばれる人たちは、本を読んだり研究者に直接聞いたりして肥料や作物を研究し、じっさいにさまざまな肥料や資材を試してみて、作物がよくできて、その作物が消費者に「おいしい」と認められてはじめて、「この肥料はいい」とか「この肥料は自分の田や畑にあっている」とか言う。さらに、土の状態や品種は年々変化するので、毎年毎年が新しい試みだ。

たとえば、自然農法の福岡正信さんは、「クローバー(マメ科)をまいて土の中の窒素がふえるということが、作物や草にとってどういう結果をもたらすかは、本当のところはまったくわからない」と言っていた(当時90歳)。トマト名人の養田昇さん(当時80歳)も「トマトは、奥が深くていまだに満足できるトマトが作れたことがない」と語り、若梅健司さん(当時78歳)も「振り返ってみて、トマトの生理生態が変わらないのと同じで、作業もそれほど変わってはいない。しかし、各作業の目的やその作業の効果に対して、若いころとは多少その見方にずれがでてきている。あまり必要ではなくむだな作業、また反省すべきことが今まで置き去りにされた部分もあり、現在、その辺のところを徐々に改善をしながら、自分なりの作業体系を作りつつある」と書いて、新しい肥料がでればすぐに試している。

アミノ酸についても同様だ。もともと、人間をふくむ動物は、植物が土(養分)、水、大気から光を利用して合成した炭水化物、タンパク質、脂質などを摂取して生存しているのであるから、エネルギー価と栄養価の高いアミノ酸を植物に施用するのは、エネルギーの無駄使いであるともいえる。ブタにトンカツを食わせて育てたり、作物を砂糖で育てるようなものだ。それほど良質なアミノ酸が豊富にあるのなら、人間が食べるか、養殖魚や家畜のエサにするのが合理的だ。もっとも、牛にビールを飲ませて育てたり、LEDで野菜を育てる経営もあるのだから、商品生産と考えれば合理性があるのであろう。

なお、社会では、有機農業とか慣行農業とか肥料とか資材とかがからむと、関係者の利害に直接に影響するので、絶対に意見が一致することはなく、とてもめんどくさいことになる。しかし、現実の経済世界で生き抜かなくてはならない農家にとっては、大事な事なので、少しだけ書いてみる。

歴史的に、山のような論文や文献が書かれており、それらを検討するだけで、1冊の本になるくらいの文字量が必要であろう。それらをすべてひもといて、検討しているヒマはない。最近に出た文献で話題になったのは、2009年に二瓶直登氏が公表した論文で、この研究は賞も受賞しているので、知っている人はよく知っているはずだ(知らない人は知らない)。若い研究者の意欲的な研究である。なお、論文中にでてくるが、植物の無機栄養説と最小律を最初に明らかにしたのは、リービッヒではなくて、テーアの弟子のシュプレンゲル(1787-1859)である(1826,1828)。「農芸化学の父」の称号はシュプレンゲルに与えられるべきであろう(文献参照)。詳細は論文を読んでほしいのだが、要約すると以下のとおりである(本当はこの論文だけでなく、論文で引用されている参考文献を読んでほしい)。

①有機質肥料の効果

イネ、チンゲンサイでは、有機質肥料の効果がある。コムギ、ホウレンソウは条件によって効果がある。ソバ、エゴマ、キュウリ、トマト、ピーマン、ナス、レタスは硫安より劣る。

二瓶

②アミノ酸の効果

アミノ酸の効果があったのは、イネ、チンゲンサイである。ダイズ、コムギ、キュウリでは効果がはっきりしない。アミノ酸の種類については、グルタミンは無機態窒素と同等以上。アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グリシン、プロリンは、無機態窒素と同等。トリプトファン、ロイシン、バリン、チロシン、メチオニン、システイン、イソロイシン、リジン、フェニルアラニンは生育を阻害する。

③イネは、窒素欠乏時だけグルタミンを吸収するのではなく、常時吸収している。

④イネは、吸収したグルタミンの窒素をすみやかにタンパク質合成に使用できる。また、グルタミンの炭素部分をエネルギー(全体の数%)として、根系の発達に利用している。

この研究は、あくまでも基礎研究であるので、じっさいの農家経営に生かすにはまだまだ実証研究とより詳細な研究が必要だ。たとえば、この試験では、根粒菌、アーバスキュラー菌根菌、共生細菌などの共生生物や、その他の土壌生物の作用は考慮されていなし、他の作物との関係(輪作、混植など)も考慮されていない。標本の中では、イネ(水稲)、チンゲンサイ(アブラナ科)、ホウレンソウ(ヒユ科)、ソバ(タデ科)は、菌根菌非共生なので、これらの作物を圃場で栽培した場合、アーバスキュラー菌根菌の影響は無視できると思われる。しかし、経営として見た場合は別の視点が必要になる。

アブラナ科作物は、西アジアが原産である。雨が少ない西アジアでは塩基の流亡が少ないので、土壌中のリンはカルシウムと結びついて難溶化している。アブラナ科植物は、このカルシウム型リンを吸収する機構を有するので、他の植物よりも優占することができる。しかし、アブラナ科単独では窒素が不足するので、マメ科植物と共生することで、窒素を得ている。すなわち、マメ科植物の遺体などから窒素をもらい、自分の遺体からはリン酸をマメ科植物に与える。なので、アブラナ科植物が、有機態窒素(マメ科植物の遺体)を吸収するのはきわめて合理的だ。すばやく吸収しないと、他の植物にとられてしまう。だから、畑作輪作では必ず、マメ科とナタネなどアブラナ科作物が組み合わされる。農家経営として、アブラナ科作物の栄養吸収を考えるときは、堆肥や有機質肥料だけでなく、とくにマメ科作物(緑肥)との輪作や間作を考慮する必要がある。さらに日本の酸性の火山成土壌地帯では、鉄型やアルミ型の難溶リンのことも考えなくてはならない。リン酸肥料のコストが経営にもっとも影響する。

ホウレンソウの原産地は、西アジアの東方と考えられている。植物分類については、最近はヒユ科に分類されている。ヒユ科の植物はやせ地で生息する力が強く、カルシウム型リンを吸収する能力があるといわれる。同じヒユ科ブダンソウのビート(てんさい)が、マメ科と組み合わされて輪作されるのは、そういう理由であろう。なので、こちらも有機態窒素(マメ科植物の遺体)を吸収するのは理にかなっている。

やせ地に育つタデ科のソバも、カルシウム型リンを吸収する能力があるので、マメ科植物など窒素固定植物と共生関係を結んでいるのかと思うとそうではなくて、こちらは有機態窒素を吸収しない。だったら硫安をやるのが効率的かといえばそうではなくて、なにか、別の方法で窒素を得ているはずだ。私が予想しているのは、ダイズやサツマイモのように窒素固定細菌との共生だ。なぜかといえば、火山が噴火したあとの原野に、真っ先に進出してくる植物のひとつがタデ科植物だからだ。しかし、ソバやタデ科植物などを研究する研究者はほとんどいないのでいまだ不明である。もし、タデ科植物が窒素固定細菌と共生しているのであれば、ソバの増収技術は、ダイズのように貯蔵養分を高めるような、中期肥効型のより繊細な施肥法が必要になる。さらに、タデ科植物の難溶リン溶解能や窒素固定能が証明されれば、今まで雑草としてじゃまもの扱いされてきたタデ科植物は、土を肥沃化させる有力な植物(緑肥)になるかもしれない。

イネ科植物にいたっては、種の数が膨大で、かつ生息域も多様だ。主要作物なので、作目、品種、文献が膨大にある。ここで論じる余裕がない。

また、ナス科については、たとえば、下の表は、平田熙氏(1994)らの調査を表にまとめたものであるが、有機農法農家の畑の土壌について、投入した有機物の種類や量、可給態リン酸、アーバスキュラー菌根菌の有無とナスの生育の関係を報告している。結果をみると、我々が考えている予想とはまったく異なる。ふつうは土づくりをすれば、アーバスキュラー菌根が増えて、作物の吸収能力が高まると思うであろう。しかし、堆厩肥を連年投入した肥沃土壌ほど菌根形成は少なく、さらに菌根の存在はナスの生育にマイナスに作用する。ところが、山林を開墾したばかりの低肥沃土壌では、ナスの生育にアーバスキュラー菌根菌がきわめて有利に働く。とても複雑で興味深い。

ナスvan

植物と共生する菌根菌の研究はかなりすすんできたが、共生細菌の働きについてはほとんど研究されていない。植物の栄養吸収の仕組みは、きわめて多様で複雑だ。長い歴史を経て作られた輪作などの農法や、精農家の経験知がもっとも確実な「知」である所以だ。(つづく。どこまでつづくかわからないくらい山のように文献がある)

文献

二瓶直登、2010、植物のアミノ酸吸収・代謝に関する研究

http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010791393.pdf

西尾道徳、No.273 植物の無機栄養説と最小律の発見者はリービッヒではなかった:その2

http://lib.ruralnet.or.jp/nisio/?p=3274

※なお「三沢嶽郎論文の存在を指摘」した読者というのは自分です

有原丈二、現代輪作の方法、農文協、1999

農家が教えるナスつくり、別冊現代農業、農文協、2015

農家が教える混植・混作・輪作の知恵、農文協、2008

農家が教える混植・混作・輪作の知恵―病害虫が減り、土がよくなる
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「窒素(硝酸イオン)が多いとなぜ作物はおいしくないのだろうか?」の解説、その5

ネルソン農場に到着した朝に、ロジャーさんに「ここの土地の印象はどうだい?」と聞かれた。「畑がとても広い上に、土がとても肥沃のようですね」と答えると、オフィスの壁にはってある、このあたりの地質図を見ながら説明しはじめた。ミネソタからノースダコタ、カナダにかけてのレッドリバー水域は、古代には巨大な湖が存在していたところで、プレーリーでもとくに土が肥沃な場所なのだという。雨は年間650ミリほどしか降らないが、冬が厳しく、吹き溜まりでは2メートルの雪が積もる(この雪が解けて洪水がおきる)。土はいわゆるプレーリー黒色土である(場所によってブラックとブラウンがある)。温帯から寒帯にかけての年間250~750ミリ程の降水量の気候では、森林が形成されずに広大な草原ができる。草原ではバッファローやシカなど草食動物が大量に繁殖する。何万年もかけて植物や動物の遺体が堆積して土壌が形成される。このあたりの堆積層は、60センチ以上もあり、その下は粘土の層だという。粘土はここが湖の底であったころに堆積したものだ。ここの土は、ロシアのチェルノーゼム、アルゼンチンのパンパ土とならび、有機物と塩基を多く含む、世界でもっとも肥沃な土壌のひとつだ。アメリカ中東部からカナダにかけての広大な面積が、この肥沃な土で覆われている。

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ダイズを播種した直後の畑(2003年)

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プレーリーの土。黒ボクに似ているが、黒ボクよりしっとりしている。中央がダイズ

ロドニーとの、施肥についてのじっさいのやりとりはこんな感じだ。
私「フェテライザー(fertilizer、肥料)はどんなものを入れてるの?」
ロドニー「フェテライザー(肥料)だよ」
私「いやいや、そうじゃなくて、フェテライザーの種類だよ。ナイトジェン(nitrogen、窒素)とかホスホラス(phosphorous、リン)とかポタシアム(potassium、カリ)とかいろいろあるやろ。成分だよ」
ロドニー(こいつはなにを言ってんだ?という顔で)「肥料はナイトジェン(窒素)に決まってるやろ。それしかないよ。ホスホラス‥‥そうそう、農業高校のときに習った」
私「‥‥」(驚きと困惑を英語でうまく表現できない)

ここでは、春小麦→ダイズ→ビートという3年輪作を行っている。春小麦とビートの作付けの年は、10a当り13キロほど窒素肥料を施すが、ダイズは無肥料で栽培する。10a当りの収穫量は小麦370キロ、ダイズ270キロ、ビート5トンという。日本の施肥では、窒素だけでなく、リン酸、カリ、カルシウムなど多くの肥料を施すのがあたりまえである。北海道の畑作農家で堆肥を入れる人はほとんどいないが、代わりに微量要素を入れる農家はけっこういる。北海道以外の畑作農家は微量要素を入れる人は見かけないが、堆肥を入れる人はいる。

本では知っていたが、じっさいに土をさわってみて、農家の話を聞いて、プレーリー土がいかに肥沃な土壌なのかを思い知らされた。土壌中に残存する養分を無視して、肥料を施さないで作物を栽培することを「無肥料栽培」というのなら、プレーリーで栽培されているダイズは、何十年も「無肥料栽培」されたものだ。

しかし、このダイズ農家にとって天国のようなところでさえ、ブラジルやアルゼンチンと猛烈な競争を強いられている。
私「この農場の大豆は日本など海外に輸出されていますが、アメリカ政府が進める農産物の貿易自由化についてどう思いますか?」
ロドニー「自分にとっては、貿易自由化などジュークだよ。あれは企業がすすめているものであって、我々農家とは何の関係もない。考えても見ろよ。農産物を完全自由化すれば、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリアからもっと安い農産物が入ってくるだけさ」
私「だけど農家は政府や農務省の政策を支持しているのでしょう?」
ロドニー「民主党とか共和党とかは関係なく、アメリカの政府は企業の利益を代表しているんだよ」
ロジャー「政府の役人は企業からやって来て、辞めれば企業に戻っていくんだよ」
私「今後の経営の目標は?」
ロドニー「まずは銀行から借りているバク大な借金を返すことだな。あと、俺達は今、1000人の農家と共同で出資して『ダコタ生産者パスタ』という食品企業を作ってるんだ。ビートのほうは、2000人の農家と共同で『アメリカクリスタルシュガー』という会社を作っている。自分たちで作ったブランドを大事に育てていきたいんだ」

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昼食風景。立ち話をしながら10分くらいですませる(2003年)

ネルソン農場のようなめぐまれた土地で、4代にわたって経営していても、大きな借金をかかえている(ただし、これはアメリカの経営移譲・資産移転の習慣が日本とは違うからであるのだが、ここで書いている余裕がない)。そして、日本の農家とまったく同じように、食品加工とか付加価値とかブランド化とか、自分の個性を表現しないと生き残っていけない。経済学者がいう、「農業技術の改善によって、ますます農家の必要性が失われていく」状況(3月9日ブログ参照)に対して、なんとかしてあがらおうと必死だ。

ロドニーの地域の同級生のなかで、農家になったのは自分一人だけだという。こんなに農業の条件がめぐまれたところでも後継者がいないのに、日本で後継者不足とさわいでいるのがこっけいに思えた。それは、世界中で当然の帰結だ。ロドニーの7歳の息子も、将来の夢はハリウッドスターかフットボールの選手だと言う。しかし、帰り際にこの少年を見かけたので、「農業は好きかい?」と声をかけてみると「好きだよ!」と力強く答えていた。(この項はとりあえず終わり)

追記
なお、かなり以前から土壌流出を防ぐための不耕起栽培の必要性がいわれているが、農家と話をした感じでは、アメリカで不耕起栽培が普及するのはそう簡単ではないと思った。それは、栽培技術上の問題というよりも、アメリカ社会の歴史とか文化とか、もっと根の深いところにつながっている。ただ、ここでは書けないので、知りたい方は文献を読んでいただきたい。

文献
本田進一郎、2016、有機農業と未来―アメリカの有機農業から何が見えるか
デイビッド・モンゴメリー、土の文明史、築地書館、2010

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「窒素(硝酸イオン)が多いとなぜ作物はおいしくないのだろうか?」の解説、その4

シカゴからノースダコタへ、車で向かっていた。この辺りが世界一の穀物生産地であることは、もちろん知っていたが、ハイウェイを時速120キロで10時間も走っているのに、いつまでたっても畑が続いている。とりわけ、ミネソタ州からサウスダコタ州に至るあたりは地面に起伏がまったく無く、鏡のような農地が地平線のかなたまで広がっている。

向かっているのはノースダコタのネルソン農場だが、ここは、モンサント社にGMダイズの特許侵害で訴えられ、それを退けた農家としても知られている。まず、町の中心部に行ってみた。小さな貨物駅があり、駅のそばにはカントリーエレベーターがぽつんと建っているが、使われているようすはない。バーらしき店が1軒あるが閉まっている。付近には10戸ほど家が建っているが、何軒かは空き家のようだ。ここがとくにさびれているというわけでなく、アメリカの農村はどこでも農家の数が減り人口が少なくなっている。大変なのは子供の通学で、学校まで片道2時間も珍しくない。やがて小型飛行機がやってきて、地面すれすれに上昇と下降を繰り返し、1枚の畑の上を行ったり来たりしている。農薬の散布作業だ。

農場に到着すると、当主のロジャーさんは、待ちかねていたように歓迎してくれ、作業小屋のわきのオフィスに招き入れてくれた。部屋には、鹿の頭の剥製がたくさん飾ってあり、鹿狩りは昔から開拓農民たちの楽しみであったようだ。60年以上も前の一族総出の鹿狩りの写真が飾ってあり、これが祖父、父親、叔父たちと説明してくれる。ネルソン家は150年ほど前に、ロジャーさんのおじいさんがノルウェーから移民してきた。ロジャーさんは1961年に21歳で就農し、以来ずっとここで農業を続けてきた。おじいさんが入植したころは、ここらあたりは樹が1本も生えていない草原で、風や洪水に苦労したらしい。現在は、家の周囲には樹が植えられ、農家は林の中に隠れるようにして住んでいる。

畑は1枚の大きさが64haで、道路も町の区画もすべて東西南北に真四角である。巨大な碁盤の上に立っているようだ。アメリカの測量法では、6マイル四方(1マイルは約1.6キロ)が1タウンシップで、これを36のセクションに分割する。1セクションは、1マイル四方(640エーカー)で、その4分の1の160エーカー(64ha)がクォーター・セクションと呼ばれる(畑1枚分)。1862年に制定されたホームステッド法により、5年間定住して耕作すれば160エーカー(64ha)の土地が無償で所有できるようになり、160万戸の開拓農民が入植した。じっさいには条件の良い土地は、土地投機業者に買い占められていたので、それを購入するという形で開拓が進められることとが多かったらしい。

ネルソン農場は、ロジャーさんと2人の息子のグレッグ、ロドニーの3家族が共同で経営している。耕作面積は3600haだが、うち2800haは借地だ(2003年当時)。栽培しているのは、春小麦、ダイズ、ビート(てんさい)。これだけの面積をこなしているのであるから、たくさんの農業労働者を雇用しているのであろうと思ったが、中心の働き手は、ロジャー、グレッグ、ロドニーの3人で、周年の雇用は2人だけという。忙しい時期は臨時に5人、もっとも忙しい収穫期に20人ほど雇用する。このあたりではネルソン農場より大きく経営している農場は1つしかなく、地域では成功した農場だ。ロジャーさんは、「3家族分だからたいしたことない」と言っていたが。そのもう1軒の農場も親戚が数家族で経営しているそうで、規模が大きいとはいえ企業化しているわけでなく、経営は依然として家族農場のままである。話をしていても、日本の農家の親父さんと話しているのとまったく同じで、みな気さくでおだやかだ。

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豆腐用の日本のダイズ品種(2003年)

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耕耘作業、運転しているのはグレッグ(2003年)

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薬剤のタンク、左はしがロジャーさん(2003年)

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ロドニー(2003年)

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播種作業(2003年)

ネルソン農場で作付けているダイズは2種類だ。ひとつは古い品種で、やや小粒。もうひとつは大粒ダイズで、日本の商社を通じて購入した豆腐用の日本の品種だ。これらを自家採種している。生産しているダイズは全て非GMで、日本、台湾に出荷されている。この日はちょうどダイズの種播きの真最中であった。ロジャーさんの車で畑に向かう。大型のハローで耕耘したあと、作業車で除草剤と殺菌剤を散布する。そのあと、トラクターの後ろに付けた播種機でダイズの種子を播いていた。農薬散布車にはロドニーが乗り、種播き作業はグレッグが1人で行っていた。アメリカの大規模農場というと、現場の作業は農業労働者が従事しているのかと思っていたが、作業の中心はやはり、ロジャー、グレッグ、ロドニーの3人だ。(一部敬称略、つづく)

「窒素(硝酸イオン)が多いとなぜ作物はおいしくないのだろうか?」の解説、その3

どうしてノースダコタあたりまで行って、畑作農家に肥料についてしつこく質問したのかを書く。だいぶ前に、ダイズについて調べていた。また、同じ時期に、リンについても調べていたのだが、それについては別の機会に書く。

ダイズは、野生のツルマメから栽培化されたと考えられている。野性のツルマメは、中国東北部、日本列島、中国南部など、東アジアに広く分布している。ニコライ・ヴァヴィロフ(1887-1943)は、「栽培植物の発祥中心地」(1926)および、「ダーウィン以後における栽培植物の発祥に関する学説」(1940)において、ダイズの起源を東アジア地域(中国中央部および東部の温暖帯と亜熱帯の地域、台湾の大部分、朝鮮半島と日本)としている。栽培ダイズの起源については、まだはっきりとわかっておらず、ダイズの起源地は一つなのか、あるいは複数なのかで研究者の意見が分かれている。たとえば、日本の在来ダイズの品種には、日本に自生する野性ツルマメの特徴が強く残っていたり、縄文時代中期の土器からダイズの圧痕が発見されたりしており、ダイズは日本でも独自に栽培化されたのではないかと考える人もいる。いわゆる「縄文農耕」の評価について激しい論争が続いている。

地域によるダイズの遺伝的な違いについては、伝来した栽培ダイズがその地域の野生ツルマメと交雑したものか、あるいはその地域で栽培化されたものがあとで伝来品種と交雑したのかの判断が難しい。圧痕についても、野生ツルマメなのか栽培ダイズなのかを見分けるのは困難だ。だから論争になる。しかし、一般にマメ科作物では、栽培種か野生種かを判断するのは、サヤが自然にはじけるかどうかの違いなのであるから、サヤがはじける遺伝子を特定し、栽培品種と野生ツルマメの標本をできるだけたくさん集めて、その遺伝的距離を調べれば、原産地を特定できるはずだ。なので、いずれはっきりするであろう。「創造の中心はただ一つ」とするダーウィンの進化論や、ムギやイネの起源と伝播の例から考えれば、栽培ダイズの起源地は中国大陸のどこかの一か所であり、それが周辺に伝来する過程で、それぞれの地域の野生ツルマメと交雑していったと考えるのが妥当だと思う。

ダイズが文献に現れはじめるのは、古代中国の『詩経』からで、これは西周時代(BC1046年頃~BC256)の民謡や祖先の霊を祭る歌などを編纂したものである。また、西周時代の金文(青銅器に刻まれた文字)には、ダイズを意味する「菽(しゅく)」の象形文字が多く残されている(図)。清代の学者である王筠(おういん)はその著書『説文釈例』の中で、菽の象形文字について、次のように解説している。「〈尗〉の文字の横線〈一〉は地を、上下に貫いた縦線〈│〉の上部は茎を、下部は根を表わしている。根の左右は円い点にすべきで、長く曳いて書くべきではない。菽には直根が生えており、左右の細い髭根は描くに足らない。ただし細根の先に豆状のものが累々とついており、この豆状のものは凶年の時は虚浮となり、豊年の時は充実している」。この解釈が正しければ、中国ではすでに西周時代にダイズの根粒について注目していたことになる。また、清代には、根粒の多少と豊凶の関係を認識していた。

菽

菽(大豆)の金文

ダイズは、根に着生する根粒菌によって窒素が供給されるので、一般的には窒素肥料を多く必要としないとされている。たとえば、標準的なダイズの施肥基準は、10a当り窒素1~3㎏、リン酸8~10㎏、カリ8~10㎏などとされている。東アジアはダイズの原産地にもかかわらず、日本のダイズの平均収量は10a当たり200㎏に満たない。もっとも、新潟大学の大山卓爾氏らは、石灰窒素の深層施肥によって、10a当たり600㎏もの子実収量を実現している。

アメリカのダイズと日本のダイズの生産コストを比較すると(表)、日本の生産費はアメリカの15.8倍なのに、反収はアメリカの6割しかない。もっとも差が大きいのは一戸当たりの作付面積でアメリカが約100倍、次が労働費で日本が約63倍である。普通に考えれば、次に来るのは機械代だ。なぜなら、大型機械で大面積を耕作するので、機械の稼働率に大きな差がでるはずだ。ところが、機械代は7.7倍にすぎず、肥料代が20.7倍も違う。農薬代は17.4倍、種代は5.5倍だ。農薬代は、雨が少ないので病気が少ないとか、GMOなので除草の手間が少ないとかで差が出るのはわかる。しかし、ダイズが吸収する養分は日本もアメリカも同じであり、肥料代は収穫量に比例するはずだ。反収はアメリカのほうが多いのであるから、ダイズが吸収する肥料もアメリカのほうが多いはずで、差がもっとも小さくなるのは肥料代のはずだ。肥料は工業製品なので、単価がそれほど違うとは考えられない。農水省が作っている統計資料などをどんなに探しても、肥料代が20倍という理由がどうしてもわからなかった。それで、直接、アメリカの農家に聞いてみるほかないと思った。(つづく)

コスト

国産ダイズと米国産ダイズのコスト比較(「国産大豆の生産コスト」より引用)

文献

ニコライ・ヴァヴィロフ、栽培植物発祥地の研究、八坂書房、1980

郭文韜他、中国農業の伝統と現代、農山漁村文化協会、1989

大山卓爾・ティワリカウサル・高橋能彦、深層施肥と根粒菌接種、農家直伝豆をトコトン楽しむ、農山漁村文化協会、2009

http://www.cacn.jp/technology/dayori_pdf/141_daizu_ohyama.pdf

国産大豆の生産コスト

http://www.jsapa.or.jp/daizu/etc/DaizuCost.pdf

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「小学生が作る1km飛ぶゴム動力飛行機」を飛ばしてみた

「小学生が作る1km飛ぶゴム動力飛行機」を飛ばしてみた。山の上に落ちなければ2分くらい飛んだのでは?

製作の様子。機体の材料は100円ショップで買ったものばかり。翼はアルミニウム管を使わない「クリップ接合」を自分で考案した。翼の角度調整が何度でもできて、壊れにくく、修理が簡単な機体ができた

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「窒素(硝酸イオン)が多いとなぜ作物はおいしくないのだろうか?」の解説、その2

アメリカのふつうの野菜がおいしくないのは、速効性の窒素肥料のせいではないかと書いた。しかし、じっさいにサリナスあたりの野菜農家をまわって、「どんな成分の肥料を使ってますか?」とか「おたくのセロリの硝酸イオン濃度は何ppmですか?」などと聞いたわけではない。あくまでも予想で書いている。そもそもそのよう仕事は、公費でアメリカに出張したり留学したりしているお役人の仕事であって、自分が身銭を切ってやる仕事ではない(くやしまぎれのへらず口)。

どうして、そのような予想をしたかといえば、ひとつは、アメリカの農家は極端に生産コストにシビア(死語?)だとされているからだ。だったら、もっとも使用するのは、価格が安い速効性の肥料(窒素)であろう。また、レタスと書いているのは玉レタス(クリスプヘッド)ではなくて、サラダバックによく入っているグリーンオークリーフ(日本だとベビーリーフなどと呼ばれる)など、収穫までの期間が短いレタスを指している。ホウレンソウやオークリーフは、収穫までの期間が極端に短いので、施用した肥料のかなりの部分が生育の初期に吸収される。その植物体内の硝酸イオン濃度が高い状態で収穫されるため、エグみが強くなるのではないかと考えた。逆にセロリは、収穫までに数ヶ月もかかるので、速効性肥料では途中で窒素が切れてしまい、色も味も薄くなるのではないかと思った。それまでは、腐植率が高いアメリカの土壌は保肥力も高いと思っていたので、どうして野菜の食味が悪くなったり、窒素が流亡したりするのか、ずっと疑問だった。しかし、腐植には、それほど窒素を保持する力がないのならば、そうなるのは当然だろう。

もうひとつは、アメリカの有機農家とじっさいに話をしたときに、以下のような話をしばしば聞いたからである。

アースバウンドファームは世界最大の有機農場で、2014年の売上額は、5.8億ドル(650億円)、2015年の時点で管理する有機栽培の面積は、5万エーカー(2万ha)という規模である。2003年に、当時アースバウンドファームの農場長であったマーク・マリノさんに取材を申し込んで、話を聞いた。マリノさんは、農場の管理と商品開発をすべてまかされており、1997年にこの会社にスカウトされたそうだが、その前は農家として20年間、有機農業を実践していたという。40代なかばに見えるのだが、野菜、果樹、品種、土壌、肥料、昆虫などについてめちゃくちゃ詳しく、私の質問によどみなく答える。たとえば、果樹の草生栽培の話になったとき、たまたま持っていたナギナタガヤの写真を見せて、「日本の果樹農家では、こんなのがはやってますよ~」というと、「ああ、フェスキュー(fescueウシノケグサ)ね。これは前に試験したことあるけど、あんまり成績よくなかったんだよね~」と当然のように答える。日本名ナギナタガヤは、欧米ではフェスキュー(fescue)と呼ばれ、牧場の飼料として利用されているが、それを果樹園の緑肥に試験している人は、マリノさんだけだった。それどころか、他の10人くらいのカリフォルニアの果樹農家に、フェスキュー(fescue)のことを聞いてみたが、誰も名前さえも知らなかった。

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農場長(当時)のマーク・マリノさん(2003年)

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アースバウンドファームの農場。草が全然なくて虫に食われてもいない(2003年)

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天敵を温存するためのホストクラップ(宿主作物)(2003年)

そのマリノさんが、何度も強調していたのは、有機栽培では、「養分が土の中の生物(細菌、菌類、せん虫、原生動物、ミミズなど)を介して、ゆっくり作物に運ばれるので、おいしくなる」ということだ。アメリカ人は実証を重視するので、日本のオーガニックのように、「ミネラルが多いからおいしい」のような、科学的根拠が希薄なことは言わない(文献参照)。とにかく、「ゆっくり効くからいい」と言う。

同じことは、フレズノで有機レーズンを作っているマイク・マッカチオンさんも言っていた。マッカチオンさんの有機レーズンは、アメリカのみならず世界中に出荷されていて、日本の自然食品店でもふつうに売っている。マッカチオンさんは、若いころはNASAの関連企業に勤めており、惑星探査機ボイジャーのプロジェクトに参加して、衛星と地上との通信業務を担当していたというバリバリのエンジニアだ。1972年にお父さんが亡くなったため、1979に会社を退職して農場を引き継いだ。とても勉強熱心で、オフィス(といっても農作業小屋の一角)には、栽培技術の専門書がずらりと並んでいる。どんな勉強をしているのか本を見せてもらったが、たとえば天敵の本には大きなカラー写真がたくさんのっていて、解説もついている。「めちゃくちゃ詳しいですね!こんな本はどこで手に入れるんですか?」というと、どっかの大学の農学部が開くセミナーに定期的に参加していて、そこで資料も購入できるという。「これはいくらするんですか?高そうですね~」というと、目玉を丸くして、「すげえ高いよ~(1冊2万円くらい)」という。そのマッカチオンさんも、「有機栽培のどこがいいんですか?」と聞くと、有機栽培のブドウ園では、「土壌中の養分がいつも適切な状態に保たれ、養分の吸収と同化がスムーズなために、病害虫の侵入に対して、ブドウの自然免疫力が高まる」と言う(やはり「ミネラルが多い」などとは言わない)。

マリノさんとマッカチオンさんの話を聞いて、よっぽどアメリカの農家は、肥料(窒素)が速効きすることに悩んでいるんだなと思った。(つづく)

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マイク・マッカチオンさん。ブドウの品種はトンプソン・シードレス(2003年)

 

文献

有機農産物の品質

https://shop.takii.co.jp/tsk/bn/pdf/20090869.pdf

なお、コメの食味については、Mg/K・N値は食味評価と正の有意な相関を示すことが知られている。

栃木県における米の食味評価 ・ 選抜

http://www.agrinet.pref.tochigi.lg.jp/nousi/kenpou/kp_043/kp_043_02.pdf

有機農業と未来: アメリカの有機農業から何が見えるか
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