農業技術者、農業指導者としての福岡正信、その1

十数年前に、自然農法の稲作技術について調べたことがある。そのときのことは、『イネの有機栽培』という本に一部書いた。それは、純粋に稲作技術についての話であり、それ以上、自然農法や福岡さんについて、何かを書くつもりはまったくなかったのだが、前回からの話の流れで、福岡さんについて思ったことを少しだけ書く。

私は、有機農業とか自然農法とか慣行農業とか企業的農業とか、そういう角度で農家を区別して見たことは一度もない。それは自分が田舎の農家の出身であることが大きいと思う。雪がたくさん積もる地方なので、冬場は仕事がなく、周囲の農家たちは、みな出稼ぎに行ったり、土建業や漁師と兼業で暮らしていた。両親は、田んぼ、林業、牛、豚、たばこ、シイタケ、山菜、薬草、長芋など、さまざまな作目をはじめたりやめたり、四苦八苦して子供を育て上げた。シイタケなどの最盛期は、早朝から家族総出で収穫し、小学生でも深夜12時ごろまでパック詰めを手伝っていた。それでも、男一人で出稼ぎにいくほうが倍の所得があったと思う。農業だけで生計を立てている家は、村に2~3軒しかいなかった。経済学の理論を借りるまでもなく、まさに私の目の前で「農家の生活は悪化」し、村から人がいなくなっていった。年寄りの話だと、米と木材の値段が高騰した終戦直後が、もっとも暮らしがよかったそうだ。私にしてみると、農法など何の関係もなしに、作物を育て、それを売って、経営体として成り立っていることだけで、農家に対して尊敬の念のような気持がわく。

よく、〇〇農法はインチキだとか、間違っているとか、いやそちらこそ正しくないとか、そういう議論を目にするが、農法などは、なんとでも解釈できるのであって、そのことを問題にすること自体、何の意味もない(本物のインチキもあると思うが)。たとえば、農学を少しでも勉強した人なら、「無肥料で作物が育つわけない」とか「無肥料栽培は、土から養分を奪うだけなので収奪農業だ」と思うであろう(私でもそう思う)。しかし、弘前の岩木山山麓のような火山性土壌地帯では、リン酸が鉄やアルミと結びついて難溶化してしまうため、60年代末から熔成リン肥(く溶性リン酸、石灰、苦土)などの土壌改良材を大量に施用してきた。すなわち、産地の火山性土壌には、大量のリンやカルシウムが蓄積しているはずである。弘前の木村さんの場合は、土壌に蓄積した養分をうまく利用し、その農産物をブランンド化して高額で販売していると解釈すれば、きわめて科学的で経済的にも合理的な経営ともいえる。農業は、自然と市場というきわめて複雑な存在を相手にする営みであり、アプリオリに何が正しいのかなどわかるはずがない。農家経営が成り立っていることそれ自体でしか、合理性を判断できない。

慣行農業についてもまったく同じことだ。アメリカの畑作地帯では窒素肥料しか施用していないと前回書いた。窒素肥料の硫安は、窒素、水素、硫黄、酸素(すべて人体に必要な物質)からなる純粋な物質であり、そのほかのよけいなものを入れていないアメリカの土地でできた小麦や大豆こそがもっともピュアな農産物であるともいえる。おまけに、トウモロコシや大豆はGMOなので(小麦は違う)、「農薬もあまりかけておらず、スーパーで売っている一番安いパンや納豆がもっともピュアな食品だ」。なんとでも解釈可能であり、しかも科学的な矛盾があるようにも見えない(はっきりとはわからない。また、アメリカと日本の農家の経営は悪化する)。

あるいは、きわめて合理的な栽培法と考えられている養液土耕でさえ、農家経営としてみると課題があることは、前回書いた。農家の経営にとって、完璧な〇〇農法などひとつもないことは、誰でも理解できるであろう。間違っているのは、そのことを知らず、人のものまねをしようとしたり、ものまねをさせようとしたり、ものまねをひろめようとしたりすることである(本質的には、人のものまねには何の意味もない)。土や植物には、正しいとか正しくないとか合理的とか非合理とか、人間の矮小な価値観が入り込む余地はまったくない。(本題に入る前に、つづく)

fukuoka.jpg
脚が悪くなっていたので、はいつくばって休耕田の草を調べる福岡さん、2003年10月

広告

投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズ(農文協)など

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中