農家は個性的でないと生き残れない(新しい技術は農家の収入を減らす)

どうして、養液土耕には課題があると述べたのかを書く。

養液土耕は、栽培技術としては、きわめて科学的、合理的であり、指導機関も力を入れているようなので、今後も普及していくであろう。そして、普及したときにそのことがわかるようになる。

わかりやすく、車で考えてみる。プリウスは、登場したばかりのころは、唯一のハイブリッド車なので順調に販売が伸びる。そこで、メーカーは新しい車種を投入しない。プリウスが、ディーラーの買いそうな顧客にいきわたると、売れ行きが鈍化する。道路もプリウスだらけになるので、個性を重視する人はプリウスを買わない。そこで、メーカーは満を持してアクアを投入する。アクアは、ハイブリッドは欲しいが、プリウスが嫌な客にどんどん売れる。やがて、アクアだらけになる。アクアだらけになると、アクアが売れなくなるので、今度はカローラとか、ハリアーとか、なんとかGSとか、よくわからんがいろいろな車種のハイブリッド車を出す。つまり、どんなに革新的な技術であっても、普及がすすめば、どんどん個性化していかないと利益はでない。

養液土耕は、この場合のハイブリッド技術にあたる。普及しはじめのときは、肥料の削減とか、素人でもプロ並みの収量が得られるなどの有利性によって利益がでるが、技術が産地にいきわたってしまうと、その有利性は逆に不利に働く。

農家は小規模な家族経営がほとんどなので、市場は競争市場になる。経済学の理論では、「競争市場では、価格は限界費用に等しくなる」。限界費用とは、生産者が、「1単位だけ生産量を増やしたときの総費用の増加分」のことである。農産物はスーパーで、大根1本とか、トマト1個とか、ホウレンソウ1束とか、極端にはゴボウ半分、長イモやレンコンを短く切ったヤツとかで売られる。1単位がきわめて小さい。たとえば、1haの畑で大根を栽培しているときに、もう1本だけ大根を多く収穫するときの、総費用の増加分が、限界費用である。農家なら、大根の限界費用=価格は、限りなくゼロに近づくことがわかるであろう。くり返すが、1haでとれる大根は4~5万本なので、大根の価格は、50001本-50000本=1本の大根をよけいに作るときの総費用の増加分である。

私は別に有機農業の信奉者というわけではない。私が三重県の福広さんのことをすばらしいと思うのは、彼が有機農業だからというわけではなく、誰もまねができないユニークな生産技術を有しており、個性的だからだ。

じつは、有機農業もハイブリッド技術に置き換えることができる。有機農業を早く始めた人は、そうではない人に比べて、農産物を高く販売できるので、有利になる。しかし、まわりが有機農業の農家だらけになると、有機農産物はめずらしくもなんともないので、高く売れない。逆に、魚カス、油カス、鶏糞、厩肥の需要が増えるので、価格がどんどん上がる。認証費用もバカにならない。もはや有機農産物の有利性は失われる。

そもそも日本の牛やニワトリは、アメリカで化学肥料で栽培されたトウモロコシや大豆カスを食べているのだから、厩肥の養分は化学肥料に由来している。有機JASを満たしていれば、あとは皆同じというのなら、有機農業も養液土耕もなんら変わらない。養分はすべて化学肥料に由来したものだ。有機農業とか環境保全型農業とか農業法人とか企業的経営とかなんとかビジネスとかでなく、先進的(まわりを出し抜ける)か、あるいは個性的でなければ生き残れない。

新しい農業技術や、新しい品種が登場した場合の、経済学の理論も書いておく。生産量の多い小麦の新品種を導入した場合、供給量は増えるが、小麦の需要はさほど増えないので、「需要曲線が非弾力的であるときは、価格の下落は総収入の減少をもたらす。‥小麦の価格はかなり下落するが、小麦の販売量はわずかしか増加しない。総収入は300ドルから220ドルへと下落する。このように、新しい品種の発見は、農家が収穫物の販売によって受け取る総収入を減少させる。‥農家の生活が悪化するにもかかわらず、なぜ彼らはそれを採用するのだろうか。‥それぞれの農家は小麦の市場のわずかな部分にすぎないので、小麦の価格は所与のものとして与えられる。任意に与えられた小麦の価格に対して、より多くの小麦を生産・販売するためには、新しい品種を用いたほうがよい。しかし、すべての農家がこのような行動をとると、小麦の供給は増大し、価格は下落する。そして農家の生活は悪化するのである」

マンキュー

「農業技術の改善は、ますます必要性が失われていく農家にとっては不利かもしれないが、食糧に支払う金額が少なくすむ消費者にとっては確実に有利である。同様に、農産物の供給を減らすことを目的とする政策は、農家の所得を引き上げるかもしれないが、それは消費者の犠牲の上に成り立っているのである」

品種改良や農業技術の改善は、社会にとってきわめて有用で、大切なことである。そのことで利益を得るのは、一見すると生産者であるかのように思えるが、本当は農家の収入はむしろ減少し、利益を享受するのは、消費者なのである。

以上のことは、私が適当でいいかげんだから言っているわけではない。世界の大学の経済学部で、もっとも多く採用されている教科書に書かれている、常識である。(つづく)

引用文献

N・グレゴリー・マンキュー、2000、マンキュー経済学1ミクロ編、東洋経済新聞社

マンキュー経済学 I ミクロ編(第3版)
N.グレゴリー マンキュー
東洋経済新報社
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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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