腐植の成り立ちと機能

腐植は、土壌を構成する大きな要素の一つである。腐植の重要性をはじめて提唱したのは、ドイツのアルブレヒト・テーア(1752-1828)であり、テーアは植物の栄養は腐植(フミン)に由来すると考えた(腐植栄養説)。テーアの弟子のシュプリンゲルは、植物の栄養は窒素、リン、カリウム、カルシウムなど鉱物に由来することを突き止め、無機栄養説を創始した。その後、無機栄養説の普及と化学肥料の登場によって、腐植の研究はあまり行われなくなってしまった。

土壌は、地殻の鉱物と土壌有機物からなる。土壌有機物は、植物や土壌動物など生きている有機物と死んだ有機物からなる。死んだ有機物は植物の茎、葉、木質などの粗大有機物と腐植からなる(図)。腐植を調べるには、さらにこれを要素に分解していかなければならない。

腐植

腐植の理化学的な分析にはじめて取り組んだのは、ソ連のM.M.コノノワである。コノノワは、チェルノーゼムの理化学的分析を進めるなかで、腐植の解析を行い、腐植の概念を提示した。日本で腐植の研究を行っている研究者は多くないが、熊田恭一氏(東京大学)、筒木潔氏(帯広畜産大学)らの研究がある。近年では、青山正和氏(弘前大学)が、腐植と土壌団粒について報告している。

有機物を土壌微生物が完全に分解すれば、有機物のもとの元素である、水素、酸素、炭素、窒素、リン、カリウム、カルシウム、亜鉛などに還元されてしまう。しかし、草原や森林では、有機物があとからあとから供給されるので、分解途中の有機物が少しずつ蓄積する。腐植が蓄積する量は、供給される有機物の量から、微生物に分解される量をひいたものである。供給される量は、一般には温度と水分量に依存し、分解される量も温度と水分量に左右される。熱帯地方では供給量は多いがそれ以上に分解される量も多いので、腐植はほとんど蓄積しない。腐植が多く蓄積するのは、適度に雨が降る冷涼な気候で、草原やブッシュが形成されるようなところである。

腐植は、有機物が分解される過程の生成物が複雑に縮合したもので、その詳細な構造を明らかにすることは困難である。もとの有機物の多くは草、葉、樹木で、セルロースと木質からできている。木質は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンが、コンクリートのような構造になったものである。セルロースも木質も、有機物のなかでは非常に分解しにくい物質である。哺乳類は、自分の消化酵素ではセルロースを分解することができず、ウシなどの反芻動物は、胃の中に共生するルーメン微生物にセルロースを分解してもらっている。シロアリは、腸内原生生物によってセルロースを分解利用するもの、担子菌類(キノコ)を栽培してセルロース分解を行うもの、また、シロアリ自身がもつセルラーゼによってセルロース消化をしているものがいる。

木質を構成するリグニンを分解するのはきわめて難しく、一部のキノコ(白色腐朽菌)だけが、これを分解できる。このことから、腐植物質の多くは、地球上の有機物のなかで最も分解するのが難しい、リグニンに由来すると考えるのが自然である。木質が毎年供給されて、白色腐朽菌が活発に活動できないような環境なら、リグニン由来の物質が大量に蓄積するはずだ。腐植酸とリグニンの元素組成は似ていることがわかっており(熊田恭一、1981)、腐植酸はリグニンが完全に分解されずに変成した物質と思われる。フルボ酸のほうは木材、樹皮、イネ科植物遺体と元素組成がやや似ており、これらの有機物が分解する過程で生成すると思われる。腐植酸とフルボ酸では、腐植酸のほうが分子量が大きく、単位重量当たりのカルボキシル基は、フルボ酸の方が多いとされている。

腐植物質は、カルボキシル基(-COOH)やフェノール性水酸基(C6H5-OH)を多く含み、これらと金属イオンが錯体(金属と非金属の原子が結合した構造を持つ化合物)を形成するため、水に溶解しにくく安定化している。結合しやすい金属は、アルミニウム、鉄、カルシウム、マグネシウム、カリウム、銅、亜鉛などの陽イオンである。アンモニウムイオン(NH4+)や硝酸イオン(NO3)の保持力は大きくない。

腐植物質は、土壌中で金属イオンと結びついて安定な状態にある「古い腐植物質」と、堆厩肥を製造したときにできる「新しい腐植物質」とにわけて見る必要がある。古い腐植物質は、雨が降っても土壌から溶け出すことはなく、陽イオン交換容量(CEC)を高める機能が強い。一方、新しい腐植物質は水に溶解し、溶存腐植酸、溶存フルボ酸と呼ばれる。堆厩肥を1年ほど堆積して腐植化が進んだ溶存腐植酸には、ごく薄い濃度のときに、植物の根の生長を促進する効果があることが知られている。

一般的な、腐植の機能として考えられているのは、以下のとおりである。

養分の貯蔵庫 腐植には、有機物として窒素、リンなどの養分が蓄えられている。有機物は土壌微生物によってゆっくりと無機化され、養分が植物に吸収、利用される。

土壌団粒の形成 腐植物質には、金属イオンや粘土粒子を結合させる働きがあり、壊れにくいミクロ団粒を形成する。さらに、ミクロ団粒と粗大有機物が、菌類や放線菌の菌糸や微生物が生産する多糖類によって結びつけられて、マクロ団粒が形成される。

陽イオン交換容量(CEC) 上記のように腐植は粘土鉱物と同様に陽イオン交換を行ない、各種の金属イオンと錯体を形成して陽イオン交換容量(CEC)を高める。CECは、土壌の養分保持力や緩衝力の目安となる。

文献

西尾道徳、No.273 植物の無機栄養説と最小律の発見者はリービッヒではなかった:その2

http://lib.ruralnet.or.jp/nisio/?p=3274

M.M.コノノワ、1964、土壌有機物、農山漁村文化協会

熊田恭一、1981、土壌有機物の化学、学会出版センター

筒木潔ほか、1994、土壌生化学、朝倉書店

青山正和、2010、土壌団粒、農山漁村文化協会

リグニン分解酵素の進化が石炭紀の終焉を引き起こした

http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2012/20120702-1.html

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズ(農文協)など

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