自由自在のパンづくり

この企画は、もともとは、『おいしくて安全 国産小麦でパンを焼く』(農文協)という1987年に出版された本のリスペクトから始まっている。それは、農文協の西森さんという編集者の熱意から作られた本だ。いまでは、天然酵母のパンとか、国産小麦のパンというのは、全国どこの町でも普通に見られるようになったが、当時は国産小麦を使うパン屋は全国で数十店しかなく、「パンは国産の小麦では焼けない(ふくらまない)」というのが業界・一般の常識であった。そうした常識を打ち破るきっかけとなったのが、この本である。

『自由自在のパンづくり』を企画したのは、2007年だが、そのころは天然酵母とか国産小麦というフレーズが流行していたころで、逆に、それ以外のパンは本物ではないという風潮さえあった。

自分でも家でパンを焼いてきたし(本の表紙の写真)、酵母についても、レーズン種、ホシノなどの「市販の天然酵母」、山から採ってきた山ブドウの酵母、リンゴの酵母などいろいろ試した。「市販の天然酵母」は値段が高いし、それ以外の野生酵母は手間がかかるわりには発酵が安定しない。種の材料も、全粒粉、玄米ご飯、野菜のすりおろし、ふすまなどいろいろ試した。

2~3日おきに焼くのならば、どんな酵母でも種が安定してくるのかもしれないが、ズボラな性格で、下手をすると1ヶ月も冷蔵庫に種を入れっぱなしにしたりするので、すっぱくなったり産膜酵母(セメダイン)が入ったり、とんでもないことになってしまう。

あるとき、白神酵母を使ってみたら、非常に簡単で、発酵力も強い。もうこれしかないと思った。しかし、よく考えたら、これはイーストとほとんど変わらんのじゃないか?と気がついてしまった。白神酵母がOKなら、「別にどんな酵母を使っても自由じゃん」と思った。さらに、「別にふくらまなくても人に売るわけではないのだから、食べておいしければいいのであって、麦の種類も焼き方も、なんでも自由じゃん」とも思った。

小麦についても、本のなかでは国産小麦の品種を詳しく紹介しているが、だからといって、外国産小麦が危ないなどとは書いていない。当時はポストハーベストだの残留農薬だの外麦は危ないという情報が流布されていたにもかかわらず。

じっさいに、2003年にノースダコタとカナダの農家に会って話を聞いたときは、とにかくその土にびっくりした。日本の農地ではめったに見たことがないくらい黒くて腐植が多い肥沃土壌で、施肥量は少ないし、農薬使用も少ないのに、日本の小麦の倍くらいの収穫量があり、しかも世界最高品質の小麦がとれる。

カナダの新米農家などは、原野のブッシュ1区画64haを、たったの4万ドルで購入して小麦を作っている。原野といっても、1~2mのブッシュをトラクターですき込めば、見たこともないようなすばらしい土壌の畑になる。土壌の厚さは1mくらいもあり、日本の農地でこんなにぶ厚い土壌が堆積しているのは、筑後川北岸の野菜地帯と、吉野川流域の野菜地帯でしか見たことがない(河川の氾濫によって肥沃な土壌が堆積している)。それが、日本の広さの何十倍も続いている。

kanada

こんなにめぐまれた土があるのに、若者たちは農業を嫌い、同級生で就農したのは彼一人だけという。カナダの農家もぜんぜん金持ちなんかではない。

本の中身はカラーがほとんど無いし、字ばかりで一般のパンづくりの本とは全然ちがう。だけど、ふわふわのふっくらパンとか、こだわりの酵母パンとかを焼きたい人は、本屋にならんでいるキレイな本を買えばよいのであって、それと同じものをさらに作ってもしょうがない(作れない)。自分が食べているものは何か?自分が食べたいものは何か?食べるとはどういうことなのか?を本当に知りたいと思っている人の欲求に答えられるような本にしたかった。

とにかく、どんなパンでもいいから、自分で作ってみれば、どんどんとその先に進んでいくはずである。そうすれば、市販のパンの技術の高さも、酵母がこの世に存在する意味も、世界が生物種で満たされていることも、自分が何者なのかもどんどん気がついてくるはずだ(おおげさな)。

本の目次(下のリンク)を見れば、自分で小麦を栽培して、製粉機で粉にして、石窯を作って、自家製酵母で焼くというふうに、「何てこだわりがすごい本だ!」と思うかもしれないが、本当はこれらの章はすべて逆説で作られている。逆説というのは、世間に流布しているパンづくりの「常識」に対する逆説のこと。

「外麦でないとふわふわにならない」→「ふわふわでなくても食べてうまければいいじゃん」

「天然酵母じゃないとおいしくない」→「白神だってイーストだってじっさいに焼いて食べればおいしいじゃん」

「高性能オーブンでないとうまく焼けない」→「そこらの土をこねた石窯でも焼けるやろ」

「日本では玄麦は制度上買えない」→「自分で栽培して自分で粉にできるやろ」…

この本は、本当はこだわりの本なんかではなくて、「常識」に対する反逆、謀反、一揆、逆襲、レジスタンス、アナーキズム、フリーダム、リバティ、適当、うけながし、のれんに腕押し、馬の耳に念仏、かえるの面に‥(以下どんどんつづく)の本の「つもり」で作られている。

だから、ふつうなら『自由自在にパンづくり』とするところを、『自由自在のパンづくり』という少しおかしなタイトルになっている。

、『自由自在のパンづくり』目次

http://www.ruralnet.or.jp/gn-tokubetsu/betsu/200710.html

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズ(農文協)など

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